寒いモンは寒いんだから、しょうがねえ。

吐き捨てるようにそう言われても相変わらずの寒さに耐えかねて、私はまた凝りもせず、寒い寒いと不満をぶつける。

「鬱陶しいんだよ。お前が寒いって言うと余計に寒く感じンだろ」
「いや、これ以上も以下も無いくらい寒いんで」

 口答えするなとでも言わんばかりの舌打ちを食らわされ、一瞬自分の立場を忘れそうになる。確か真選組が保護を任されている幕臣の娘な筈だけど。

 どうして私がこんなにも暖房の無い狭い部屋に閉じ込められているんだろう? その理由を聞いたら、空調が壊れているということは教えて貰えたが、部屋の狭さについては何も言及されなかった。ただ、狭くて悪かったなと言いながら渋い顔をされたので、うっすらとここは土方さんの私用の部屋であることは感づく事ができた。

女人禁止の真選組において、恐らくかなり難易度の高い土方さんの部屋にやすやすと潜入できる自分の出生と、どっかの星の馬鹿王子との接待動物園なんていう仕事を請け負った父さんに全力で感謝したい。

一服中の土方さんに緩み切った顔を見られてしまい、「キモっ」と小声で呟かれたことを差し引きしても、今日は良い日だ。寒いこと以外は。

「そういえばお前確か、こないだ攘夷派の連中に誘拐されたんだろ。災難だったな」

何をもってして「そういえば」なのかは考えたくもないが、どうせ土方さんの耳には届きはしないと思っていたことだったので、少々驚いた。

「近藤さんとザキが、やけに心配してんたんでな。どうもないだろうから心配損だと思ってたが、どうやら予想通りだったみたいだな」
「お言葉ですが、当てにしてた真選組が出動してくれなかったから、めっちゃ大変だったんですけど」
「まあ、ウチも暇じゃないんでね。その代わり、ほら、今子守してやってんだろ。感謝しろ」
「あーあ、そんなこと言われるんだったら、銀ちゃんとこに頼めばよかったなー今日もー」

土方さんの動きが一瞬、不自然に停止したかと思うと、ギロリと睨まれた。

「お前、その銀ちゃんってのは、もしかしてあのクソ万事屋のことか……?」
「そうだよ、誘拐された時に、たまたま助けてくれたんだよね〜。え、何? 知り合い?」

渋々、土方さんが懇切丁寧に万事屋さんとの長年に渡る腐れ縁と抗争の歴史を話してくれた。まさか地雷だったとは、先に教えといていただきたかった。

もう真選組との付き合いは3年弱になるけれど、ここまで土方さんと気まずかったのは、初対面の時に、うっかり土方スペシャルを私に対する嫌がらせと勘違いして、大騒ぎして以来である。いつもだったら姿を見るだけで体が勝手に凍りついてしまう沖田さんですら、今となっては恋しい。しかし、会いたくはない。ようやく土方さんの話が終わったので、小さくごめんなさいと謝っておいた。なんだこの話、誰が得するんだ。

「で?なんだっけ?銀ちゃんとこに頼めばよかったんだっけ?ごめんね〜銀ちゃんじゃなくて、俺なんかが相手して〜」
「い、いや、そういうつもりじゃ……」
「おい、男の嫉妬はみっともないぞトシ」
「全くでさァ。そんな事よりお二方、いつになったらヤることヤるんでィ。俺はもうあんたらの生ぬるい会話は聞き飽きちまった」
「コラ総悟! そんな事言っちゃいけません!」
「お嬢さんも、どうせ選ぶなら土方のクソ野郎よりも、万事屋の旦那にしときなせェ。甲斐性なしのちゃらんぽらんだけど、よっぽどいい男でさァ」

何事も無かったかのように、押し入れから現れた二人に、容赦無く土方さんの拳骨が振り下ろされる。若干引いていた私に、ニヤニヤと笑いかけながら二人は部屋から出て行った。

当然だが、残された私達に待っていたのは、更に気まずい沈黙だった。さっきまでだって、ギリギリの均衡を保っていたのに、あの変態ストーカー世話焼きコンビにそれすらもぶち壊されてしまったのだ。土方さんも動揺のあまり、タバコにタバコで火をつけようとしていた。寒さが増したのは言うまでもない。
最もまずかったのは、男の部屋に男女が一人ずついるという状況をあのドエス先輩のせいで、二人とも初めて意識してしまったことである。今までも何度もこんな状況になったが、一度もそんな風に思わなかった。しかし、私も一般的に見るともう娘と言っても良い年だ。それなのに、交際前の男女が同じ部屋にいる危険性を全く意識しなかった。それもそのはず、土方さんは私にとっては、男と意識するにはあまりにも近すぎる。

「土方さんって、私にとって兄みたいなもんですもんね〜」
「そそそうだな。お前は妹のようなもんだと常日頃から」
「……へぇ、妹が誘拐されて何とも思わないなんて、薄情な兄上ですこと」
「そっちこそ、兄よりもどこの馬の骨かもわからないちゃらんぽらんを選んでおいて、よくそんなこと言えるもんだな」
「……」
「……」

どう足掻いてもこうなってしまうのか。沈黙が二人の間に流れ、それを空気を読まずに私のクシャミが遮った。瞬間、土方さんと私の間に空いていた微妙な距離が、土方さんによって思い切り詰められた。簡単に言うと、土方さんの足と足の間に挟まれ、背中をぎゅうと抱きしめられている。

「……これで、寒くねぇだろ」
「なにこれ、半纏?」

というのは一瞬のことで、どこから取り出したのかサンタのなり損ないのような色をした半纏を着せられていただけのようだった。今更になって、焦り出した心臓を見透かしてか、得意げな顔をしてるのが無性に腹立たしい。

「マヨネーズを集めて当たった特別な半纏だ。ありがたく思えや」
「……ありがとう」


聞いて納得のカラーリングに鼻を埋めると、意外にも彼のいつもくわえている煙草の匂いがしみついていて、ああ、これが妹特典なのかなんて嬉しくなった。

「次連れ去られたら、助けに来てね」
「……暇だったらな」

フイと逸らされる視線に、ほんの少しだけ後悔を見た気がして、さっきされたみたいに後ろから抱きついてみた。妹だったら、許されるでしょ? そう言って笑う私に、複雑そうな顔を浮かべる土方さんの部屋は、相変わらず寒いままだった。



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