その白い頸に噛み付きたくなった。僕にその皮膚を噛み切る牙なんて無いけれど、月明かりに照らされたそれは、とても美味しそうに感じ喉が鳴る。
目の前で大切な人を亡くし、絶望の淵に突き落とされた彼女がとても儚く美しく、この腕の中に収めたくなった。涙を零さまいと上を向いて堪える仕草に、伸ばしかけた腕は宙で止まる。
「私を庇って死ぬなんて馬鹿だよね」
赤い瞳で無理に笑う彼女を、今度こそ抱き締めた。静かに涙を流し始めた姿を見て、腕に力が入る。
ずっと前から好きだった。蓋をしていたはずの感情が溢れて止まらない。うまく抑え込んでいたはずなのに。
気が付いたら泣いていた。一緒に泣いた。
溢れる感情は全部飲み込んで、たくさん鍵をかけて、腹の奥底に隠す。いつも通りの友人へと戻る為に。
五条悟はこの月の綺麗な夜を一生忘れる事はないだろう。
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