きっちり強めの化粧をして、普段より数センチ高いヒールを履く。この戦闘服が仕事モードのスイッチ。
「今日は休みだって言ってたじゃないですか」
玄関先でジャケットの裾を後ろから掴まれる。きっと恵は不貞腐れた顔をしているのだろう。
「久々にお互いの休みが被ったんですよ」
「それはそうだけど、トラブルだから仕方ないよ」
珍しく可愛らしい行動をする恵に悪いが、行かねばならない。
「あいつ居るんですか」
たしか前に話をした新卒の男の子だろうか。教育係として色々一緒に行動していると話してから、恵はやたらと彼を気にしている。別に、先輩後輩で何も無いのだけれど。
「居ると思うよ」
居るも何も、その彼からの救援依頼なのだ。この事は恵には伏せておくとしよう。
「終わったらすぐ帰ってきて下さいね」
「うん、終わったらね」
ぴくりと恵の顔が引きつった気がした。
怒らせたのだろうか。いや、怒っている。
「前みたいに泊まり込みとかなしですからね。絶対ですよ」
「何も無いと思うんだけどな」
ドンと顔の横から音がする。目の前には恵の顔。いわゆる壁ドンだ。玄関ではどうなる。ドアドン?玄関ドン?なんて考えていたけれど、整った恵の顔が綺麗すぎて考える事を放棄した。
「あまく見すぎです。年下でも男です。簡単に孕ませる事だって」
するすると太ももから腰へと撫でる手が、首元のボタンをひとつ、ふたつと外していく。まるで捕食者のような鋭い目をした恵にごくりと喉がなった。
「気を付けて。あと、今夜は寝かせません」
さらっとお見送りをしているが、最後の一言は聞き捨てならないし、笑ってるつもりでしょうが恵さん、目は笑ってませんよ。
「うん、行ってきます」
明日は代休か、それとも有給か。仕事も心配だけれども、私は明日が心配だ。
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