懐かしい夢を見た。俺が子どもの頃。小学一年の時に初めて会った人。五条先生と同じように制服に身を包んだ女の人。
恵くんは可愛いなと遠慮なしに撫で回す手が好きだった。義理の姉と俺をほっとけなくて通い詰める世話焼きな所も。二人の面倒は私がみると言った時も衝撃的だった。優しい笑顔、名前を呼ぶ声、花のような甘い香り、五感全部で覚えてる。今でも思い出すと心が震える。

ある日を境に、ぱたりと来なくなった彼女を知りたくて、必死に呪術を学んだ。少しでも近付きたくて。呪術師になればベールに包まれた彼女が、少しでも理解できるのではないかと。
目標であった呪術師になってみたものの、彼女の情報は見当たらなかった。五条先生に尋ねても分からないと言うだけだ。
消息不明になる前に特級クラスと交戦していた情報は残っている。
もしかするとそこで……。

「なぁ、伏黒ってどんな女が好きなの?」

休憩時間に暇を持て余した虎杖が、自分の机から身を乗り出す。

「何だよ急に」

どうせいつものくだらない思い付きだろう。
好きな女……。俺はきっと初恋を拗らせている。一回り以上離れた大人の女、幼少期ひと時の間、共に過した彼女を。

「教えねぇ」

「つまんねーの」

落胆した虎杖を気に留めることもなく、取り出した本に目を通す事にした。

♢♢♢

「今日は四人目の一年生を紹介するよ」

この中途半端な時期に編入だろうか、新しい同級生に興味津々の虎杖と釘崎が騒がしい。特に興味が湧くわけもなく、窓越しの空を眺める。今日はゆっくりと雲が流れる日だ。

「初めまして。諸々の事情あって、今日からよろしくお願いします」

どくりと心臓が高鳴る。聞き覚えのある懐かしい声。ずっと聞きたかった声がする。
声の主はあの時と変わらない姿のまま、今この空間に存在している。
ガタン。勢い良く立ち上がった反動で椅子が倒れた音も気にならず、彼女から目が離せない。話したい事は山ほどある。今までどこに居て何をしてただとか。唇は震えるだけで声にはならない。

「恵くん、おっきくなったねぇ」

ふわりと優しい笑顔を見た時には身体が勝手に動いていた。
変わらない香りと体温を間近に感じて、存在を確信する。彼女は生きている。今ここで。

「何年待たせるんですか」

ごめんごめんと言うかのように背中をぽんぽんと撫でる彼女を、腕に力を入れて更に抱き締める。今はこれでいい。

「恵ってば大胆」

周りの音はシャットアウトして、とりあえず今は彼女の存在を全身で感じていたい。


五条によって引っ剥がされ、虎杖と釘崎に質問攻めにされるのは、もう少し先の話である。




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