「姉ちゃん、ちょっと助けてくんね?」

きっかけはこの台詞だった。口元に傷のある整った顔の男、禪院甚爾と出会ったのは。私に声をかけたのは、たまたま持ち合わせがなく腹が減っていたからだとか。
仕事人間で、特に趣味も無い。生きていく為に必要最低限しか金を使う事しかなく、毎日繰り返す日々に飽き始めていた頃だった。彼氏も作る気にならず、独り身だった為、なんの躊躇いもなく自宅へ招き入れた。それから我が家に転がり込むようになった甚爾は、立派なヒモである。
こんな関係になってしばらく経つが、未だに甚爾を詳しくは知らない。

「遅かったじゃねぇか」

会社の飲み会が思った以上に盛り上がり、帰るに帰れず二次会まで参加する羽目になった。三次会の計画を立て始めた時には、全力で帰る言い訳を模索して、帰りたいとそれとなく促すと、気を利かせた同僚が反対気味の先輩をうまく丸め込み、アシストしてくれた。その好意に甘え、なんとか帰宅できたところだ。

「臭い」

そばに寄って来た甚爾に、ストレートに臭いと言われ、地味に傷付く。すんすんと上着を嗅いでみると酒と煙草、色んな混ざった匂いがした。確かに臭うかもしれない。

「他の男の匂いさせやがって」

男の匂いとは何だろうか。飲みの席では接待はするし、酔って肩を抱かれた事もある。それは酔っ払いのスキンシップであろう。それを甚爾が感じ取ったのだろうか。ますます謎が深まるばかりだ。

「俺はお前の料理を待ってたんだがな」

腹が減って癇癪を起こしているのか。意外と可愛い所もあるもんだと冷蔵庫の中身を思い出す。皺にならないよう、上着をハンガーに掛け、キッチンに向かう。

「気にいらねぇ」

怒気を含んだ声と共に身体に衝撃が走る。気付いた時にはフローリングに転がっていた。まるで許さないと鋭い獣の様な瞳に睨まれ動けない。更に強い力で拘束され逃げ場を失う。

「これじゃ料理出来ないよ」

「いらねぇよ」
 
どうしろというのか。組み敷かれ動く事もままならず、気迫に押され喋ることすらできない。
勢い良く弾け飛ぶシャツのボタンがスローモションで舞い、ああ、今から抱かれるんだと思い知る。出来る事ならこの場所じゃない方がいい。体重をかけられ背中が痛い。
スカートをたくし上げられひやりと空気を感じ、開脚させられた事により恥ずかしさが込み上げる。

「ちょっと……」

内腿に熱を感じて上体を起こし覗き込むと、不適な笑みをした甚爾と目が合った。本当に顔が良いから質が悪い。
びりっと音を立て、お気に入りのパンストは破かれた。噛んで破かれるなんて想像もしていたかった。破いた本人は悪気もなく更に手を進めていく。
乱暴に揉みしだく手も、荒く噛みつくような口付けも、悔しい事にとても気持ちがいい。

「お前は俺のだろ」

何も言えなくなり甚爾にされるがまま、身体も脳もぐずぐずに溶かされる。

手懐けているのはどちらだろう。
 



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