「腹が減って死にそうです」
この知らせを受けるのは何度目だろうか。
雨の日に子猫を保護するはずが、何故かずぶ濡れの青年を保護した。
最初は遠慮していたけれど、慣れたのか心開いたのか、今では家に遊びに来るようになった。
多忙な彼はたまにこうして不定期に連絡してくる。なんだかんだでほっとけなくて、お風呂とご飯を準備してしまう。そろそろ着く頃だろう。そう思っているうちに玄関のチャイムが鳴った。
「お疲れ様」
眉間に皺を寄せて不機嫌ですと言わんばかりのオーラを漂わせた伏黒とばちりと目が合った。
「疲れた。眠たい。腹減った」
倒れるように寄りかかってくる身体を全身で受け止める。脱力し、ぐったりしている自分より大きい身体を、なんとか支える。
伏黒は気まぐれに連絡をしてくる。会社の飲み会で夜中帰った時に玄関の前で座りこんで待っていた時もあった。一ヶ月連絡してこない時もある。まるで気まぐれ具合が猫のようだ。艶やかな毛並みをした黒猫だ。黒猫は懐くと甘えん坊。何だかとてもらしい。
「お風呂に入って疲れを癒しておいで」
うん、と返信はするものの中々動かない身体を半ば無理やり動かしバスルームに向かう。そろそろ解放して欲しい。しぶしぶ支度を始めた伏黒をバスルームに残して夕飯の支度を再開する事にした。
「風呂だけじゃ疲れは癒されない」
コンロの火を消した途端、するりと後から腕が回ってきた。肩に頭を置かれてくすぐったい。お腹すいたと言うくせに何かと引っ付いて離れない。
「冷めないうちに食べて。お腹すいてるでしょ」
やんわりもがいて抵抗すると、仕方なく解放された。
美味しいと滅多に言わないけれど、残さないので口には合ってるのだろう。今回も綺麗に皿だけが残った。自分が食べた皿を下げて戻って来た伏黒の瞳は何か言いたげだ。訴えている。
「お布団準備するね」
いつものように来客用の布団を準備し出す。リビングのテーブルを少し動かして伏黒のスペースを確保する。未だに何かと訴えようとする伏黒を布団に無理やり押し込んだ。
「ゆっくりお休み」
あからさまに嫌な顔をした伏黒を子どもを寝かしつけるように一定のリズムをとる。
「子ども扱いしないでください。俺が言いたいこと分かってますよね」
はいはい、と相槌を打ちながらとんとんと続けると伏黒の瞼は降りていく。眉間に皺が少し残る、幼い寝顔を見届けて寝室へ向かった。
♢♢♢
けたたましくなるアラームで目を覚ました伏黒は大きな溜め息をついた。
また好きな女を抱けなかった。いつも上手いことかわされる。今回も見事に寝かしつけられた。
片付けと身支度を済ませて寝室を覗くと気持ち良さそうに寝ている姿が見える。起こさないよう静かに部屋を後にし、施錠してポストに鍵を隠した。
次は抱いてやる。最低三回は抱く。
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