「私、バック上手なの」

狭い車内の中、彼女の発言にどくりと心臓が脈打った。
補助監督の彼女が運転する単独任務の帰りの車内で、先程までありきたりな話を楽しんでいた。
色恋の話題になり『イケメンなのに彼女作らないとか信じられない』などと彼女は言っていた。恋人を作らないのは貴女に関係があるんですよと言ってしまいたい。
いつからなんて分からない。気付いた時にはいつも彼女を目で追っていた。もう出会うべくして出会ったのだ。そう思っている。
そんな話題の中、急に後背位が上手いとは何事だろうか。彼女は私を試しているのか、何か返答をした方がいいのかと脳内でぐるぐる悩む。
恥じらいながらこちらに腰を突き上げ強請る姿が目に浮かぶ。そんな淫らな彼女も美しく、ぞくぞくと湧き上がる支配欲にぴくりと下腹部が反応した。

「七海?具合悪い?」

ルームミラー越しに目が合う彼女は、心配そうな顔をしている。

「いえ」

いつの間にか車は高専に到着していた。駐車場の所定の場所に車を進めると、彼女は振り返る事も、ドアを開ける事もなくミラーだけで綺麗にバック駐車をした。

「ね、上手じゃない?」

ぶわっと顔に熱が集まった。
最初から彼女はバック駐車の事を言っていたのだ。それを勝手に後背位と解釈し、欲望のまま好き勝手に彼女をあられもない姿にした。
この事実を彼女が知ればきっとケダモノだと嫌うだろう。

「上手ですね」

満足そうに笑う彼女を見て罪悪感に苛まれる。
下腹部の熱はまだ残っており、なんとか鎮めようと焦る。

「やっぱり具合悪いでしょ?」

疑うように運転席から振り返る彼女に、本当の事なんて言えるわけもない。
身体はすこぶる元気で、いや、元気過ぎて困っているところだ。

「そんな事はありません」

「ならいいけど。着いたよ」

それとなく下車を促されている。
ここで降りねばまた疑われる。
幸いにも鎮まり出した分身に感謝し、ゆっくりと降りた。

「お疲れ」

「お疲れ様でした」

後は各々の報告を終わらせるべく、彼女は先に歩き出した。向かう方向は一緒で、彼女の後ろを歩く。
スーツの上から身体のラインをなぞる様に動く視線に、先程と一緒ではないかと自らを戒める。

「きゃっ」

前方でバランスを崩し、前に倒れ込もうとする彼女に咄嗟に身体が動いた。
両腕でしっかりと抱き抱えれば、彼女は傷一つなく無事だ。間に合って良かった。

「ありがと」

顔は見えないけれど、きっと彼女は安堵した表情をしているだろう。
ふと、両手の柔らかい感触に神経が集中する。この辺りは確か……。

「おっぱい……」

がっしりホールドしていたのは身体だけでなく、胸もホールドしていたようだ。

「うん、そうだね……」

慌てて飛び退くと彼女がふるふると震えている。恐る恐る前へ回り込むと赤い顔で潤んだ瞳の彼女と目があった。

「ゔっ」

もう嫌だ。消えてしまいたい。今日は厄日だ。そうに違いない。
再び反応した分身に泣きたくなる。

「お腹痛いの?」

うずくまる姿を心配する彼女は、もういつも通りに戻っていた。
自分も早く元に戻ってしまいたい。

「ええ。先程はすみませんでした」

彼女はきょとんとして『びっくりはしたけど大丈夫』と言った。
それから少し考え込むような顔をし、屈託のない笑顔でこう言った。

「七海もおっぱいって言うんだね」

この事は彼女の五条悟だけには知られたくないが、多分耳に入るだろう。
穴があったら入りたい。今なら素手で穴を掘れる気がする。




/home