頭を激しく強打した。出血し視界は奪われ平衡感覚も狂っている。傷口から勢い良く流れ出る血が煩わしい。

目の前でにたにたと嗤う呪霊は、この場を楽しんでいるようだ。完全に弄ばれている。分かっている。これには敵わないと。仲間が逃げ切る為の時間稼ぎにはなっただろうか。死ぬのならせめて役に立って死ねたなら。そう思って仲間を逃がしたけれど、いざ死と直面すると恐怖に慄く。怖い、死にたくない。

ゆっくりと近寄る呪霊は、恍惚の表情を浮かべているようにも見える。

「武者震いだよクソ野郎」

言葉を理解したかのように、悲鳴の様な叫び声を上げ怒り狂う。風を切った音がした瞬間身体に激痛が走った。壁に打ち付けられた背中が痛い。ぐらぐらと脳が揺すぶられ気持ちが悪い。たまらずその場に嘔吐した。

そろそろ体力の限界だ。この状況が楽しくて堪らないであろう呪霊を睨み付ける事しか出来ない。こちらに伸びてくる腕らしきものに、腹に刺さった鉄パイプを勢い良く引き抜かれた。血飛沫を浴び更に喜んでいる。今度こそ殺される。

勢い良く扉の開く音がした。同時に何かに引っ張られ身体が宙を舞う。天井がスローモーションで過ぎるように感じる。

「大丈夫ですか」

聞き覚えのある声、見覚えのある式神。伏黒はたしか別の任務に就いていたはずだ。仲間が知らせたにしては早すぎる気もするが。

「大丈夫に見えるかな。骨折してるし腹に穴は空いてる。おまけに血塗れゲロまみれ。人生で一番汚い姿だよ。最悪」

意外と喋れると思ったが、視界がもやもやと霞みがかっている。伏黒の姿もぼやけて見え、輪郭しか把握出来ない。身体も冷え感覚も無くなってきた。何より凄く眠たい。

「綺麗ですよ」
 
とうとう幻聴まで。
どんな姿でも貰いますと聞こえた気がした。明日からどう接したらいいか、変に意識する自分を笑って目を閉じた。





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