(顕現→禁足→甘噛み)
人の一生とはあっという間に終わる。悲しい事に階段を踏み外し転がり落ちて終焉。こうしてふわふわと宙を舞う私は成仏できなかったのだろう。心残りといえば休載しがちな先生が久しぶりに新刊を出した。それを読みたかった。完結するまで生きていきたかった。それくらいだ。本屋に行けばその作品を見れるのでは。あわよくば立ち読みしている人の背後なら見れるかもしれない。
本屋で彷徨っていると一人の少年を見つけた。ちょうど読みたかった新刊を握っている。この人について行こう。会計を終えて店を出る姿をひたすら追い続けた。
「今日はお色気九尾の玉藻ちゃん三巻をじっくり読むぞ。デュフフ」
何という事だ。読みたかった新刊は未開封のタワーに積まれた。この少年まだ読むつもりはないらしい。よく見るとその前の巻も未開封。完璧なる人権ミスである。
「僕もこんな可愛い子と一緒に暮らしたいなぁ。美少女の式神とか」
がさがさと机の引き出しを漁り出した少年は、古く廃れた紙を引っ張り出した。
「興味本位で買った式札が火を吹くぜ」
完全に自分の世界に入っている。急急如律令と叫んだ。
一人遊びから我にかえり阿呆らしいとくしゃくしゃに丸めた紙を投げ捨てる。放物線を描いてこちらに飛んできた紙は身体を通り抜ける事なく当たって落ちた。
「さて、同志と感想大会をやりまするぞ」
滾ると叫びだした。もういいかな。別の人探そう。少しの間だったけれど楽しかったよ少年。次は拗らせてない人見つけよう。部屋の窓から外に通り抜けようとした瞬間、とてつもない力に引っ張られた。まるでこの場から逃げるなと言わんばかりに。
「はっ!?」
眩い光を放って式札が宙を舞う。辺りが真っ白で何も見えない。
やっと視界がクリアになった時、目の前にはキラキラと目を輝かせた少年が奇声を上げながら全力で喜んでいた。
「やった!ついに僕にも玉藻ちゃんが!」
何を言っているのかよくわからない。肩を掴まれがくがくと揺さぶられる。触れられている。これはどういう事だ。辺りを見渡すと姿見に写る姿に絶句した。
「今日から僕が主ですぞ」
ひょんな事から主が出来た。物も触れるし、何でもできる身体を手に入れた。ただ、狐の耳と九つの尻尾のオプション付きで。
「お胸のボリュームが足りないけど我慢するよ」
全力で振りかぶって殴った。尻尾で。
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