「うちのクラスはメイド喫茶になります。女子も男子もメイドです」

委員長の声に男子生徒はマジかよと落胆した。女子の可愛い姿を拝めるのは良いが、男子まで女装とは残念だと大半の男子は思っているだろう。
表の接客は他の生徒に任せ、俺とヒロは厨房を勝ち取った。残念ながら名字は客引きへと抜擢され抗議するも無駄だった。

「降谷と諸伏はずるいなぁ」

メニューの開発のミィーティングでも名字は不貞腐れていた。机に突っ伏してやる気は0に近い。

「野郎のメイド服なんて誰が喜ぶんだよ…」

これはしばらく引きずるやつだ。可哀想だと同情はするが、本音は楽しみで仕方なかった。



「ひっ、名前っ、可愛いぞ」

泣くほど笑うヒロが名字を褒める。クラシカルな長めの丈のメイド服を着た名字。
その姿は背は丸まりいつもより小さい。肩に担がれた看板にはポップな字体でメイド喫茶エデンと書かれている。ゲラゲラ笑うヒロを見て名字は不貞腐れる。

「僕より降谷のが絶対似合うのにな。そろそろ交代の時間じゃない?」

客引きメイドに交代の制度なんてなかった。その旨を告げると名字の表情はみるみるうちに険しくなった。

「30分耐えるしかないさ。頑張れ」

はぁ。とため息をついて名字は客を求めて教室の外へ歩き出した。たちまち聞こえる女子の黄色い歓声に発案者のクラスメイトは良い掴みだと喜んでいた。



「助けてくれ。この通り」

文化祭の実行委員から俺とヒロは懇願されていた。ライブを予定していたバンドがトラブルで予定時間に間に合わなくなった。穴を埋める事が出来ず、実行委員は頭を抱えていた。
そして、風の噂で降谷と諸伏が楽器が弾けると聞き、今に至る。

「俺らには荷が重い気もするが…」

「2人ならビジュアルでどうにかなる。トークだけでも盛り上がる。きっと!」

最後の砦の2人を逃しはしないと実行委員は食い下がる。急すぎると渋る2人を捕まえて離さない。

「結局2時間捕まったんだけど…もう無理、疲れた」

げっそりした名字が戻ってきた。いまだにメイド服のままだ。頭のカチューシャは首にぶら下げ、看板はその辺に投げたのか音がした。

名字の登場に実行委員はキラキラと瞳を輝かせた。その瞳は名字を完全にロックオンしている。

「名字っ、頼む。引き受けてくれたならコレをやる」

実行委員はポケットから封筒を出しギフト券10000円分を名字へ見せた。
そう来たかと名字を見ると、ヒロも同じ事を考えていた様で視線が合わさった。名字の目はギフト券しか見ていなかったが。

「ちなみに何するの?」

その問いに実行委員はニヤリと笑った。

「降谷と諸伏が楽器隊するから名字は歌ってくれればいい」

この3人でバンドを組めと理解した名字は、俺達の顔をちらりと見た。その表情は少し困惑している。

「これも思い出だ。やろうぜ、ゼロ」

ぱんと俺と名字の肩を叩いた乗り気のヒロは楽しそうに笑う。やれやれと笑ってみるも少し期待している自分がいる。

「僕、歌上手くないけどいいの?」

眉尻を下げて不安げな名字に答えた。

「いつも通りにすれば大丈夫」

出番までの3時間、急ピッチでリハーサルが始まった。



「今日は!なんと!シークレットゲストが!」

集まった観客を煽る実行委員に3人は苦笑した。緊張からか名字の顔は心なしか硬い。見かねて円陣を組む様に名字とヒロの肩を抱いた。

「成功したら焼肉食べに行こう」

「お、いいね」

「食べ放題がいいな」

安直な提案にヒロも名字もノリノリで、3人の緊張は少しほぐれた気がする。そして最高に盛り上げられた観客の前に俺達は飛び出した。
シークレットゲストと煽られ、観客達も誰かと期待していたに違いない。自分達で良かったのかと恐る恐る顔を上げると全力で手を振る女の子と目が合った。名字はこの子の為にやり遂げると自身を鼓舞したに違いない。

「次でラストになります。振り頑張って覚えたんで、知ってる人は一緒によろしくね」

邦楽ロックの後、最近話題のアイドルソングをチョイスした。そこまでアイドルに詳しくない3人が付け焼き刃で必死に叩き込んだ曲。数回引いてものにした俺とヒロに名字は君らは宇宙人かと真顔で呟いたのを思い出した。

間奏中にそれぞれの名前を呼ぶ声が聞こえ、名字は耳に手を当てるジェスチャーをした。すると先ほどよりも大きな声で名前くん好き!とアイドルコンサート並みの声援。もちろん聞こえた名字はうんうんと相槌を打ってマイクを握った。

「僕も」

その言葉に会場が沸いたのが分かった。他の女子もこの一瞬で名字名前の虜になったのだろう。

「こりゃ参った」

「俺もファンになりそう」

この日から3人はイケメントリオと周知され、伝説のライブと語り継がれるのだ。


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