「可愛い子が多いS女学園と夏祭りだよ?!」

クラスメイトの Y田が力説する。だから降谷の諸伏も来てくれと。お前達が来てくれないと困るとまで言われたが乗り気ではなかった。

「そう言われてもな…」

ヒロも乗り気ではなかった。他校の女子と祭りをして楽しいのだろうか。気心知れた仲間内で集まった方が楽しいに決まっている。
廊下で女子に捕まっていた名字が2人の元へ戻ってくると、 Y田は名字の肩に腕を回した。

「名字は来てくれるんだよな」

「うん?」

よく理解せず返事をする名字に俺とヒロは声をあげて驚いた。

「バイトは?」

「定休日なんだ。好きな物奢ってくれるって言うし、行こうかなって」

食べ物に釣られたなコイツ。名字が参加すると知れば、急に参加してもいいような気がする。ヒロも名字が行くなら行こうかなと言い出した。

「女子は浴衣だってよ」

「え、女子来るの?」

何も把握していない名字は食べ物の事しか考えてなかったらしい。瞳を輝かせ彼女作れるかなとまで言い出した。
名字が楽しそうなのは良いのだが、名字に彼女が出来てしまうと3人の仲が変わってしまいそうで、素直に喜べない。なぜ自分がこんな事を考えたのかは分からなかった。



「噂の3人、本当に来てくれたんだぁ」

さすがS女学園。レベルの高い女の子達が華やかに着飾って現れた。企画した Y田は鼻高々に自分がセッティングしたのだと語る。

「イカ焼き、たこ焼き食べたい」

花より団子。名字は屋台に夢中でS女の生徒をY田が紹介するが、みんな可愛いねといつもより適当に褒めている。この違いは俺達くらいしか分からないだろう。
S女の生徒達はY田含む男子のグループと金魚すくいで盛り上がっている。

「名前くんは何かしないの?」

A美と名乗っていた女の子が名字の服の裾を引いた。特に遊ぶ予定も無かった名字はうーんと屋台を眺めた。

「名字、トイレあっちだぞ」

トイレなんて一言も発していないが名字をA美から引き離し、ごめんね。また後でと連れ出した。

「降谷、トイレ行きたいの?」

無言でぐいぐいと引っ張る俺に名字は1人で射的に夢中な諸伏を放置で良いのかと気にしている。

「大丈夫?間に合う?」

「いや、トイレはしない」

足を止めた場所はトイレからは程遠く、木の茂った人気のない公園。こんな場所あったのかと名字は感心している。

「はぁ…」

何だか疲れた。この公園に存在する唯一のベンチへ腰を下ろした。項垂れるように座ると名字は俺の足元で屈み顔を覗き込んできた。

「大丈夫?具合悪い?」

「疲れただけ。来るならヒロと名字だけで来たかった」

言葉を発してから後悔した。
自分が思うよりも幼稚な言いぐさ。それはまるで機嫌の悪い子どものようだ。急に後悔と羞恥心が押し寄せてくる。

「来年は3人だけで来ようよ」

想像とは違う優しい声色が降ってくる。頭を撫でられ大人しくされるがまま。

「降谷の髪の毛サラサラ。トリートメント何使ってるの」

「お前ってやつは」

がばっと顔を上げればみたこともない優しい顔をした名字。薄暗くて良かった。どうも調子が狂う。動揺する自分を悟られなくて良かった。

「ごめんごめん」

ぐいっと腕を引くと名字は立ち上がった。そのままベンチへ促すと隣へ腰を下ろす。座らせてみたものの特に会話もなく、どうしたもんかと考えていたら名字はガサガサとイカ焼きのパックを開けた。

「降谷も食べる?」

「食べる」

断られるかと思っていたのか意外そうな顔をした名字に手を伸ばす。受け取ったイカ焼きを頬張ると甘辛くて美味しい。
冷めてしまったが美味しい。絶対にビールに合うなんて高校生らしくない事を言う名字に笑った。

「あっ…」

木々の隙間から大輪の花が覗く。どうやら打ち上げ花火の時間らしい。本来なら人混みの中で見上げていたであろう景色。

「穴場だね。よく見つけたね」

「たまたまだよ」

ヒロは今頃どうしているだろう。みんなと花火を見ているだろうか。2人が居ないと探しているだろうか。ヒロも連れて来れば良かった。
4尺玉が咲くのを見上げながら、花火に負けないくらい綺麗な顔をしてるんだろう。とちらりと隣を盗み見れば、ばっちり目が合ってしまった。

「花火綺麗だね。諸伏も連れて来れば良かったね」

「そうだな」

花火へと視線を戻した名字の横顔は綺麗だ。整った顔をしている。本気を出せば彼女なんて直ぐ出来るだろう。名字も友達より彼女を優先するのかなんて考えて少し寂しくなる。彼女が出来れば彼女優先してもらわなけば困るのだけれど。

「ヒロが探してる」

メールを読んだ名字がそろそろ合流しようと腰を上げる。腹も膨れ、空になった容器のみの袋をぶら下げて。

「諸伏が泣いちゃうまえに戻ろっか」



「お前らどこ行ってたんだよ」

開口一番責められた。仕方ない。黙って居なくなった俺と名字が悪いのだ。いつの間にかS女学園の生徒たちとY田達は帰ったらしく、ヒロは1人で待っていた。

「ごめんね」

「来年は3人で回るんだったら許す」

2人のもちろんの返答にヒロは満足そう笑った。かちゃりと音を立て、ラムネ瓶を2人へ差し出した。

「飲もうぜ」

よく冷えたラムネは打ち込み式だ。ぺりぺりとラベルを剥がし付属のキャップで勢いよく打ち付けた。

「うわっ!」

名字の手の中で勢い良く噴射したラムネは3人を濡らした。ゆっくり沈むビー玉を楽しむ暇もなくタオルと慌てふためく事となった。

「そろそろ帰るか」

からりと音を立て空になった瓶が3本並ぶ。こんな時間がずっと続けば。2人もそう思っていれば良いのに。


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