私のクラスにはイケメントリオと呼ばれる男子が居る。頭も容姿も完璧な降谷零、あどけなさの中に色気を含んだ諸伏景光、ぽっと出の名字名前だ。
文化祭のライブから明らかに周りが注目しだした。
降谷×諸伏の中に突如現れた名字名前は正直邪魔だと思っている。私の推しカプの間にポジショニングした彼は謎なのだ。チャラい見た目の割には誰とでも分け隔てなく接し、犬の様に懐っこい時もある。本気になっている女子もちらほら居る。
それなら早く女子とくっ付いて2人から離れて欲しいが、私が見たところ2人が阻止している様にも見える。特に降谷くんが。違うそうじゃない。降谷くんは諸伏くんのセコムで居てくれ。
「暑いね」
斜め上から聞こえた声にはっとした。夕方と言えど、このクソ暑い日に花壇に水やりなどしたくはない。だがしかし当番なのでせざるを得ない。よりにもよって私が目の敵にしている名字名前と一緒に。
「そうですね。名字くんは真面目に水やりするのは意外です」
「そうかな。僕は意外と真面目だよ」
へにゃりと笑う顔に思わずドギマギしてしまった。ただの意外性だろう。私の推しカプのお邪魔虫にときめくなんてあり得ないのだ。
「名字何してんの」
クラスメイトのY田が名字くんの背後に現れた。特に反応する事もなく花壇の水やりだけど?と答えるのが面白くないのかY田は名字くんからホースを取り上げ、ウェーイと意味の分からない奇声を上げシャワーのノズルを振り回した。
「Y田っ、僕は良いけど女の子は…」
「お前達何をしている」
偶然通りかかった教頭の一喝でY田は名字くんへホースを渡し逃げるように退散した。最悪だ。頭から濡れた。さっと目の前に現れた後ろ姿で教頭の姿は見えなくなる。
「すみません。ちゃんと片付けますんで」
何とか納得した教頭はぶつぶつと独り言を歩いて行く。その間私は、地面に出来た染みを眺める事しかできなかった。頭に過ぎるのは私は悪くないと言う自己保身のみだ。言い訳もせず名字くんは謝罪したというのに。
「とばっちりだよね」
振り返った名字くんの髪の毛も濡れていていつもより癖が出ている。癖のある濡れた髪の毛を伝ってぽたりぽたりと落ちる雫を目で追えば、顎を伝って首筋から鎖骨へと流れて消えた。何だかそれがセクシーで目が離せない。
「これ使って」
ふわりと肩に重さを感じた。それは名字くんが使っていたタオルだと気がついた。水道の近くに置いてあった気がする。
「臭かったらごめんね。でも隠した方が良いかなって」
名字くんの視線の先は私の上半身だ。制服のシャツは濡れて下着が透けている。インナーは着ているが濡れて張り付き、くっきりと分かるソレが恥ずかしくなった。
「Y田の事は怒っとくよ。女の子濡らすなんて酷いよね」
硬直している私に名字くんはちょっと触れるよと一言かけてシャツを隠すように大判のタオルを羽織らせる。何だこの思いやり塊は。イケメンかよ。ブサメンではないのは確かであるが。教室戻ろうかと少し屈んだ彼と目が合うとドクドクと心臓が叫んだ。嘘だ。信じられない。
「好きになっちゃいそう」
思わず声に出てしまった。言うつもりも無かったのに。心の中で呟いたはずが思わず声に出てしまった。気まずいではないか。恐る恐る名字くんの目を見ると先程も見たへにゃりとした笑顔だ。
「なっちゃいそうか。まだそうじゃないんだね。残念」
言い終わった後の顔はへにゃりなんて似合わないものだった。私から言わせるとあれは雄の顔だ。ぶわっと顔に熱が集まるのが分かる。絶対に赤面している。首から上が暑くて仕方ない。
「意識してくれてるんだ」
怪しく笑う名字くんなんて初めてみた。これは心臓に悪い。降谷×諸伏の邪魔者なんて思ってごめんなさい。2人まとめて抱いてあげて。リアルの男子にときめくなんて思いもしなかった。今は顔は暑いし心臓は煩い。まるで恋する乙女ではないか。
「先に教室戻ってるね」
ひらひらと手を振って去る背中に何も言い返す事は出来なかった。羽織ったタオルにそっと触れてみると洗剤の香りと爽やかだけれど少し甘い名字くんの香りがした。あの人将来スパダリになるだろ。降谷くんも諸伏くんも幸せだね。でも少しもやっとする。もしも彼の隣が私なら…なんて一瞬考えてかき消すようにぶんぶんと頭を振った。
名字名前、恐ろしい男である。