私は昔から男が嫌いだった。
厳ついしクサイし、すぐに汚い言葉を使うし、何かと女の子を苛めては泣かせるから。
逆に女の子は好きだった。
柔らかいし可愛いし、風に靡く良いニオイのする髪や、歩く度にふわふわと揺れるスカートの裾を見るだけで心が踊った。私も、性別は同じハズなのにそう・・はなれなかったから。
だからこそ、私が守らなくちゃいけないと思った。

か弱い女の子を苛めるクソ野郎どもを見掛ける度に殴りかかる私の事を、周りは「女のクセに」と遠去けた。
だけど彼女は――スージーQだけは違った。

「んもォォ! ナマエったら、またケンカしたのね!」
「だってアイツら、1人の女の子を男3人で苛めようとしてたんだよ!? 許せないよ!」
「いいから来なさい、頭を冷やす時間よ!」

まるでお母さんか何かのような口調で言いながら私の耳を引っ張って、近くの座れる場所まで連れて行く。それから私の隣に座って、カバンの中から簡易的な救急セットを取り出すと、「いたいいたい!」と騒ぐ私を無視して消毒液の付いたガーゼで傷口を容赦無く拭いてくるのが、いつもの流れだった。
なのに。その日は、そうはならなかった。

「あなたが正しい事くらい、分かってるわ」
「……スージーQ?」
「だけど、状況は何も変わってない……あなただって女の子・・・なんだから」

その言葉を聞いた時、心臓が握り潰されているかのような痛みが走った。クソ野郎どもに殴られたり、髪を引っ張られた時なんかよりも、もっともっと苦しくて痛かった。
その時は、女の子を悲しませたからだと思って深くは考えなかったけれど――時間が経つに連れて、だんだんと理由がハッキリしてきた。
私はいつの間にか、スージーQに恋心を抱いていた、らしい。

それからは彼女の言動一つ一つが天国であり、地獄のようでもあった。気持ちを打ち明けてしまいたい反面で、私達の関係が壊れてしまう事が何よりも怖かった。
彼女は私を『好き』だと言って、『誇りに思う』と続けてくれた。一緒に手を繋いで、色々な場所に出掛けた。
勿論、仲が良い「友達」として。

それでも嬉しかったし、ずっとこのままでも構わないと思えるくらいには、身も心も大人になれた。
――ハズ、だったのに。


「ナマエッ! ここよ、ここ!」

待ち合わせの場所で、背伸びまでして大きく手を振ってくれるスージーQの元へ駆け出して――彼女の薬指にはまっていた物に愕然とした。
変な汗が身体中から吹き出す感覚。頭の中もお腹の中もグルグルと何かが渦巻いて、気を抜けば吐いてしまいそうだった。

「ソレって、まさか――」
「フフフ、気付いちゃった? ちょっと遅くなっちゃったけれど……親友のあなたには、ちゃんと伝えておきたくって!」

昔と何一つ変わらない、可愛らしい仕草と愛らしい笑顔。
だけど、頬を赤らめながら『ジョセフ』とかいうヤツについて嬉しそうに語るスージーQは、私の知っているスージーQじゃなかった。

彼女からの手紙がパッタリ途絶えた時に、何か嫌な予感はしていた。暫くして手紙が届いた時も、その中に『嬉しい報告があるのよ!』『直接伝えたいし、久し振りに一緒に出掛けない?』とつづられた文字を見た時も……浮かれる心と相反して、頭は警報を鳴らしていた。

だけどこんなの……こんな酷い仕打ちをしなくてもいいじゃない。
ねぇ、神様。
  

初恋は
報われない



そんな事を聞いた覚えがあるけれど、どうやらそれは、本当だったみたいね。