あれから古い書籍を幾つか読み漁っては見たものの、私の疑問を解消してくれるものは得られなかった。
だが幼いながらに自分ではない、全く違う他人の記憶の一部を有している――所謂「生まれ変わり」とでも言おうか、そういった事例は確かに存在しているらしい。
にわかには信じがたい事だが、疑念もなければ失笑する気にもならないのはやはり、ナマエの存在があるからなのだろう。
あの子供は、記憶の中に存在しているナマエとは明らかに異なった存在ではある。それでも、ふとした瞬間に重なって見えるような気がするのは、何故なのだろうか。
「まさに、世界の頂点に立つに相応しい力だ」
続けて「そうは思わないか?」と、ヴァニラ・アイスに問い掛けていた所で思わず一歩を踏み出して、そのままの勢いで二歩目まで出てしまった。
それは部屋の扉がゆっくりと開かれている事に気付いたからだ。そんな事をする人物が一人しか居ない事も含めて。
しかし普段であればきちんとノックをするはずだ。それ以前に、今はエンヤ婆と一緒に居る筈では無かったのか。
何故なのかと思案を始める前に見えた光景で、全てを納得する事が出来た。
だからこそ、アイスを
「はっ、すぐに――」
やつは何の疑いも抱く事無く、私の命令通りに行動しようとした。
だが普段からは想像出来ない程の素早さで飛び出してきたナマエの妨害によって、完遂する事は出来なかった。
「やっ、やめてください! でぃおに、ひどいこと、しないで!」
「!」
「やだやだ、うっちゃ、やだあ……っ!」
何もかもがあまりにも無意味だった。
銃口の先に飛び出す訳でもなければ、銃身に飛び付いた訳でもない。勢いよく飛び付いた所で、アイスの体を揺らす事すら出来ていない――だが、それでも。
普段の自分を抑え込むような静かな言動ではなく、そこまで必死になってこのDIOを守ろうとしたという点だけは、微塵も無意味だとは思わん。
「ナマエ」
どうするべきなのか判断しかねるといった視線を投げるアイスの足から、未だに引っ付いたままの幼い体を抱き上げる。
両方の瞳に涙を溜め込みながらも、その頬を伝った跡は見受けられなかった。そればかりか強く噛み締めた歯が時折カチカチと鳴っている辺り、相当の勇気を振り絞ったらしい。
そういえば、もう暫く経つというのに未だにアイスを怖がる素振りを見せていたんだったか。ならば、尚更に決心が必要だった事だろう。
褒美と労いの意味も込めて涙を拭ってやりながら「これはただの手品だったのだ」と教え込んでやれば、ほんの数十秒の内に幾つもの違った表情を見せた。
挙げ句には嗚咽混じりの声で何度もアイスに謝罪を繰り返すものだから、さっさとやつを下がらせるべきだったと後悔した。
「それはそうと、エンヤ婆はどうしたのだ? 一緒ではなかったのか?」
「あっ!」
大きく開けた口を隠すように両手を動かして視線を彷徨わせながら、何も言わずに飛び出してきてしまった事を申し訳無さそうに告白するナマエの髪を撫でてやる。
こんな子供一人を止める事など容易かっただろうに。わざとそうしなかったのだと伝えた所で、恐らくナマエは理解出来んだろうと、笑うに留めておいた。
「ど、どうしよう……わたし、すぐにもどっておばあちゃんに、」
「気にするな。アイスからでも聞くだろう」
「でも……」
「それよりも、だ……今日は何をして、どんな面白いものを見付けたのかを、聞かせてくれないか?」
「……はいっ!」
機嫌が良いと分かる表情と返事を聞き届けてから、床に転がる無数の散弾を避けて足を進める。
ナマエをベッドに座らせ、その隣に腰を下ろせばいつも通りに、大袈裟に思えるような身振り手振りと共に今日の出来事を楽しそうに話し始めた。
未発達の体躯から繰り出される一挙手一投足は、どれだけ眺めていても不思議と飽きる事はない。それどころか見れば見る程に、胸の内がザワつくような、形容し難い感情が湧き上がる気さえするのだ。
それが一体なんなのかは全く理解出来ないが――しかし、日を追うごとに、時間が経つにつれて確実に成長しているという事だけは理解していた。
このままこの子供が成長を続けた末に、私が求めているナマエという存在は、どうなるのだろうか。
その過程で記憶が消えてしまうような事があったなら、何一つ似通った所のない女に成長していこうとしたなら。
その時、私はどう行動するのだろうか。
――ああいや、違うな。