選考

「それではこれより、三大魔法学校対抗試合最終代表選手、Oブロック選考を行います」

フィールドの正面で、絹江が自身の杖を喉元に当てがい、拡声呪文を使いながら言った。
その言葉を聞いて、京華は目を伏せ、1年前のことに思いを馳せた。



「いらっしゃい、京華ちゃん」
「お邪魔します」

教員達の部屋がある、生活棟の3階のフロアにある絹江の部屋に、京華は来ていた。

「それでね、京華ちゃん。今日ここに来てもらった理由なんだけれど」
「……三大魔法学校対抗試合の、ことですよね」
「ええ、そうよ」

絹江は急須を使い、宇治の玉露を湯呑みに淹れながら言った。

「京華ちゃんは、参加しようと思ってる?それとも、不参加で行こうと思ってる?
……京華ちゃんの、ありのままの意見が聞きたいのだけれど」

座椅子に正座した京華の前にお茶と羊羹を置き、絹江は京華の向かい側に座った。

「私は……」

先ほどの龍臣との会話を思い出し、京華は口を開いた。

「私は、立候補したいです」
「…龍臣くんに、背中を押されたのね?」

にっこりと微笑んでお茶を啜った絹江に、京華は目をぱちくりとさせたが、観念したように笑い、いただきますと一言断ってから自分も音を立てずにお茶を啜った。やっぱりお祖母ちゃんには敵わないらしい。

「でも、良かったわ。京華ちゃんがそう言ってくれて」
「……?」
「実はね、京華ちゃんに折り入って頼みがあるの」

湯呑みを置き、ぴんと背筋を伸ばした絹江の表情に、京華は思わず息を呑んだ。
それは、自分の祖母でも、鳳凰の学院長でもない。
今まで見たことのないほど研ぎ澄まされた目の、真剣な表情をした女性だった。

「ヴォルデモートって、知っているかしら」
「ヴォルデモート……近代世界史の本に出てきました。確か数年前までイギリスの方で名を馳せていた、英国魔法界史上最恐最悪の魔法使い。死喰い人デスイーターという部下を従えて、ホグワーツ魔法魔術学校設立者の1人、サラザール・スリザリンの思想の名の元に『純血主義』とやらを重んじていたという……」
「ええ、よく出来ました。……そう、そのヴォルデモートよ。あっちでは『例のあの人』とか言って、今でも名前を呼ぶことは恐れられているわ」
「確か、ヴォルデモートは13年ほど前に滅んだ筈では?」

絹江の表情や雰囲気から、京華の言葉遣いも自然と改まる。

「ええ。でもね、アルバスの見立てでは、ヴォルデモートは来年中に復活する可能性が極めて高いのよ」
「え?復活?ま、待って下さい、だって…ヴォルデモートは、死んだ筈では?それに、アルバスって誰です」
「アルバスは、アルバス・ダンブルドアのことよ?」
「……知り合いだったんですか」
「まあ、昔からの顔馴染みね」

あのアルバス・ダンブルドアとお祖母ちゃんが知り合い?あの長い髭の偉人と?
……やっぱりこの人には敵わない。

「それに、アルバスが言うには、ヴォルデモートは死んだのではなく、一時的に力を失っただけ…。まあ、それについては私も同感ね」
「一時的に……。それでは、来年中にまた力を取り戻すと?」
「アルバスの見立てでは、そういうことになるわ」
「…待って下さい、来年……三大魔法学校対抗試合の開催と被ってるじゃありませんか!そんなの危険です!今すぐ開催を中止すべきです!」
「でもね、京華ちゃん。いくらアルバスが賢くて、偉大な人物であっても、推測だけでは事を動かすことは出来ないのよ」
「それは、確かに……」

思わず乗り出した身を元に戻し、京華は俯いた。

「……それで、私にこの話をした意図は?」
「ええ。順序立てて説明するから。まず『生き残った男の子』って聞いたことある?」
「ええ。ヴォルデモートに目をつけられた人物の中でも、尚且英国魔法界の『許されざる呪文』の1つ『死の呪文』を受けた人の中でも、唯一生き残った男の子のことですよね」
「そうよ。実はね、ヴォルデモートが復活を遂げるために行うと考えられる、恐ろしい古代の闇の儀式にはね、今ホグワーツに在学している『生き残った男の子』…ハリー・ポッター君が必要らしいの。アルバスの話では、恐らくヴォルデモートは、三大魔法学校対抗試合に目を向けさせて、その隙に配下の者を学校に潜り込ませようとする可能性があるみたい」
「……そこまで分かっていながら、対策は取らないのですか?」
「もちろん、対策は取るわ。でもね、予想外の事態が起こらないと断言することは出来ない」

絹江は、湯呑みのお茶を飲み干して言った。

「単刀直入に言うわね。
……京華ちゃん。あなたに、スパイをやってもらいたいの」




純粋に人として、ヴォルデモートの行いを許したくは無かった。
祖父の国を、ふるさとを。また悪夢で包みたくはないと思った。
京華は、それを引き受けた。
鳳凰としてホグワーツに赴き、生徒、あるいは教員達に、闇側の人間がいないか見極める。『気』を使う陰陽道を得意とする京華には適任だった。
その為にも、私はこの最終選考に残らなければならない。

「最終考査は、今までとは方法を変えて行います。今回の方式は──『1vs1 バトル・トーナメント』。その名の通り、人対人の純粋な戦いです。
候補生の皆さんはA〜Oまでの15のブロックに振り分けられます。トーナメント方式で同じブロックの生徒達と戦って勝ち抜いて行き、最後まで残った生徒が、ホグワーツ留学への切符と、ホグワーツで行われる代表選手最終選考への参加資格を手に入れます」

いつもは何ら変哲の無いグラウンドである校庭が、今は芝生のバトルフィールドへ様変わりしていた。フィールドの周りにはぐるりと囲むように観客席が設置され、生徒達の期待と興奮で熱気が溢れている。
京華のブロックは、最終ブロックのOだ。ちなみに龍臣はDで、京華が勝ち抜けば2人とも一緒にホグワーツに行けるということである。
既にOブロックも残すところあと一試合であり、京華はその試合(ちなみに対戦相手は風紀委員長だった)も難なく勝ち抜き、やすやすと渡英の切符を手にしたのだった。
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