※ヒロインはスリザリンです



「──それでね、あの知ったかぶりのグレンジャーったら、キーキー怒鳴りながら言うものだからもう五月蝿いのなんのって。本当、リスみたいだし、『穢れた血』だし、目障りですよ……。ミス・トンプソン?どうしたんですか?」
「……!ごめんなさい、ちょっと疲れてぼーっとしてしまったわ。今日はもう休むわね、おやすみなさい」
「お、おやすみなさい!」

グレンジャーがリスならあなたはパグ犬よ。
人を知ったかぶりと呼ぶ前にもっと勉強しなさいよ。
──という言葉を全部飲み込んで、代わりに吐き出したのは当たり障りの無い定型文。
私が寝室へ行こうとすると、すれ違う生徒が揃って挨拶をしてくる。
別に私が特別顔が広いとか、友達が多いとかそういう訳ではない。私がブラック家やマルフォイ家と並ぶ魔法界の名家、トンプソン家のひとり娘だからだ。
寝室へ入り、扉を閉めて詰めていた息を吐き出す。
純血主義とか、穢れた血とか、サラザール・スリザリンとか、本当は全部どうでも良い。魔法族の規模なんてたかが知れてるのだから、マグルを受け入れなければ私達はとうに滅んでいたのだし、そこに気が付かず純血を鼻にかける周囲の人間が心底阿呆らしい。パンジーも、ダフネも、セオドールも、ドラコも、クラッブもゴイルも。父と母は好きだけれど、純血を鼻にかける所は、嫌いだ。
でも、まだ純血主義の方が顔が利くこの世の中。
純血名家トンプソン家のひとり娘が純血主義じゃないなんて知れたら、両親にも色々と迷惑がかかるし、この寮での暮らしも何かと面倒になる。それは避けたい。私はただ、静かに本を読んでいたいだけ。
だから私は、毎日毎日作り物の笑顔と作り物の思想で、さも純血主義であるかのように振る舞って。
今までずっとそうしてきたから別に訳ないけれど、でも、そろそろ、溜息の重さで押し潰されそうだった。



「あの本は…確かここの辺り……、」
「あっ」
「あ、」

大分前に読んだ本を読み直したくて、私は図書館に来ていた。
記憶を辿って、目当ての本がある本棚の背表紙を指で横になぞりながら探していると、同じ本のところで他の誰かの指とぶつかってしまったのだ。

「ごめん、当たってしまったよね」

ちら、とネクタイを盗み見る。カナリアイエローに黒……ハッフルパフか。見たところ上級生っぽい。ローブの胸に監督生バッジが光っていた。

「いえ、別に大丈夫です」
「そうか、良かった。…ごめんね、僕が周りを見ていなかったせいで…」
「、いえ、見ていなかったのは私も同じなので、大丈夫です。じゃあ、失礼します」

何だか最近疲れが溜まっているらしい。いつものようにやることが怠くて、私は踵を返そうとした。

「待って!」
「……なんですか」

パッ、と腕を掴まれて、私は渋々先程の上級生に向き直った。

「君、無理して笑ってるだろう」
「……は?」
「分かるんだ。君は無理して笑ってる」
「…何を、」
「分かるよ。僕はずっと、君を見てきたからね」
「い、みが、分かりません」
「3年前に組み分け帽子を被った時から」
「、」
「……僕なら、君の溜息でも何でも、受け止めてあげられると思うんだけど」

そう言って、はにかんだように笑った彼のグレーの瞳に見とれてしまったのは、仕方のないことだと思うのだ。


正しくかわいく生きてゆこうね



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