(……退屈だなあ)

とある土曜日。
私はすることが何もなく、ホグワーツ校内をぶらぶらと歩いていた。
来週提出する分の課題は全て済ませてしまったし、ホグズミードもクィディッチの試合も当分先だ。アンジェリーナとアリシアは課題がまだ終わっていないらしいから、退屈を紛らわすことも無ければ話相手もいない。
つまり、暇なのだ。

──そう言えば巷では、シリウス・ブラックという凶悪犯があのアズカバンを脱走して、今なお捕まっていないという。
あの吸魂鬼もいるアズカバンを抜け出したなんて、一体どんな方法を使ったんだろう。
学年の初め、ルームメイトのアンジェリーナやアリシアとホグワーツ特急のコンパートメントで談笑していたら、急に列車が止まって、凍えるぐらい寒くなって……。
あの時のことを思い出して、私はぶるりと体を震わせた。
あんなの思い出したくもない。ゾッとする。いくら私が守護霊の呪文を使えると言ったって、やっぱり嫌なものは嫌なのだ。
とは言え、この学校にはダンブルドアもいるから私はあまり気に留めていないし、休日の校内は極めてのんびりとした時間が流れている。

「やることないし……あそこ行こうかな」

私は行く先を決めて、頭の後ろで組んでいた腕を解いて歩き出した。


◇◇◇◇◇◇


「んんんーっ!きもち〜……」

私が来たのは、屋根の上だ。
昨年、今日のように手持ち無沙汰だった時、偶然屋根の上に出られるような割れた天窓を見つけた。縄かけ呪文でよじ登ってみるとそこはやっぱり屋根の上で、それ以来ここは私だけの秘密の場所になったのだった。

流れていく雲を、特に何もすることなくぼーっと眺める。
私はこうして空を眺めながら過ごす時間がとても好きだ。
厨房で屋敷しもべ達から拝借してきたかぼちゃジュースの瓶を飲みながら、飛んでいく鳥の群れを目で追う。
そのうちかぼちゃジュースも飲み干してしまって、私は杖を振って瓶を消した。

「…ふ、ぁ、あぁ〜……。眠い、なあ…」

ぽかぽかとした陽射しに照らされて、だんだんと瞼が重くなってきた。

(……ちょっとだけ、お昼寝しよう)

私はもう1度あくびをすると、静かに瞼を閉じた。



◇◇◇◇◇◇



はっ、と目を覚ますと、辺りはもうほの暗くなっていた。遠くの地平線に、夕日が沈みかけている。

「やっば…思ったより寝ちゃったなー…」

ぐーっと伸びをして、ぼさぼさになった髪を整えようと上体を起こす。
すると、体から何かがぱさりと音を立てて落ちた。

「ん?何これ?」

私のものではない、誰かの、ローブ。
グリフィンドールの紋章が入っているから、私と同じ寮なんだろうけど…。もしかして誰かが、私の体が冷えるとかけてくれたのだろうか。
この場所は誰にも知られていない筈だ(と思っていた)から、一体誰がかけてくれたのか検討もつかない。

(このまま放っておくわけにはいかないから…とりあえず寮に持って帰ろう)

私は見えない誰かさんのローブを抱えて、屋根を伝い、天窓から城の中に戻った。


優しい誰かは名無しさん



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