湖のそばの芝生に寝っ転がりながら、俺はフレッドとリーと一緒に昼寝をしていた。たまに起き上がって大イカの足をくすぐって遊ぶのは面白い。俺は何だかその日は目が冴えていて、グーグー眠りこけている2人のそばを離れて大イカの足をくすぐっていた。
その時辺りはちょうど夕日でキャロットオレンジに染められていた。2人は眩しい夕日が当たってもちっとも起きやしない。どんだけ眠ってるんだ、と思ったけど、あまりにも気持ち良さそうにしているもんだからそのままほっとくことにして、俺は1人で城の中に戻った。
今制作中の悪戯グッズについてあれこれ考えながら歩いていると、いつの間にかとんちんかんな場所へ来てしまっていた。グリフィンドールの談話室に行くつもりだったのに。忍びの地図……はハリーに譲っちまったから生憎持っていない。これは困った。

「どーすっかなあ……」

きょろきょろと辺りを見回していると、向こうの方に割れた天窓があるのを見つけた。杖を振れば誰だって直せるのに、何故か割れたままにしてある。ざわ、と悪戯心が騒ぐ。ここを黙って通り過ぎるような俺じゃあない。

「グンミフーニス、縄よ」

杖を振って縄を出して、俺は天窓をよじ登った。昔フレッドと木登りしたのを思い出す。あの時は確か、俺達を見て登ってきたロンが1人で勝手に登って勝手に落ちたんだっけ。全く、ママったらロニー坊やを贔屓しすぎさ、何だって俺達が怒られなくちゃいけないんだ。

「、」

そんな至極どうでもいいことを考えながら屋根の上に上がった瞬間、俺は文字通り言葉を失った。

「んー……」
「……クラリス?」

屋根の上で気持ち良さそうに眠っていたのは、他でもない、同じグリフィンドールのクラリス・トンプソンだった。しかも、綺麗な金髪と顔立ちで校内でも有数の美女だと囁かれている、あのクラリス。
まあ、とは言っても常日頃から談話室で顔を合わせているし、互いに異性の友人としてはそこそこ仲が良い方だと自負している。ただ、だからと言って彼女の寝顔を見た事がある訳では無い。これは絶対に言える。

「…、」

そして、もう1つ絶対に言えることがある。
夕日に照らされたクラリスの寝顔が、予想の遥か斜め上を行くぐらい綺麗だったってことだ。
ばくばくばく、と心臓の鼓動が早鐘を打っているのが自分でも分かった。
正直、彼女は前から気になる存在ではあった。ただ、クラリスは俺達の前だとかなりしっかりした方だし、アンジェリーナやアリシアに引っ張られているだけのように見えて実は割と周りを見ていて。
そしてしっかりしているようなんだけど本当は少し抜けていたりするから、前述した2人のボディーガードが変な虫が付かないようにそれとなくクラリスをガッチリとガードしている。お陰で彼女は、その容姿ならもっとモテて良い筈なのにまるで色恋沙汰には無縁という奇妙な状態だ。
要するに何が言いたいかと言うと、そんな気になる彼女の、普段滅多に見ない無防備な姿を見たら流石の俺でもドキドキしてしまうということだ。ああ、駄目だ何か上手く纏まらない。

「そりゃあズルいぜ、クラリス……」

屋根に寝っ転がる彼女の横に腰掛けた状態でクラリスの顔を見下ろしながらそう呟けば、まだ寝ているのかへにゃりとした笑いが返って来た。

「っくしゅ!」
「、!」

そして続いた小さなくしゃみの音に、俺は起きたのかと思わず身を捩った。だが、次の瞬間には彼女はもう夢の中に逆戻りしていて、俺は1つ息を吐くと自分のローブを脱いで彼女の体にそっと掛けてやった。
たった今まで俺が着ていたせいで温かいのか、もぞもぞとローブを手繰り寄せたクラリスに少し笑ってから金色に染まった前髪を撫でて、俺はそのまま屋上を後にした。

ずっと考えていた悪戯グッズのアイデアは、すっかりどこかへ行ってしまっていた。


思いがけない光景



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