彼は誰時
沖田ver
掃除、洗濯など粗方やることは終わった。
今日は井上さんが買い物に行ってくれるみたいだし……。
前川邸に戻ったら芹沢さんに変な用事頼まれそうだし……どうしようかなぁ。
ちょっと様子見るだけ……と思いながら私は壬生寺に足を向ける。
するとそこには、無心で素振りをしている沖田がいた。
他の人は、巡察や他の仕事をしているのだろうか……。
木刀を振るう音だけが、境内に響く。
誰か相手をいることを過程して突きを放ったりしているようだ。
その誰かが影のように私にも見え、先ほどから沖田の繰り出される攻撃は首や心臓……人の急所を的確に狙ったものだった。
すると急に手を止めると
「……そこに誰かいるの?練習覗き見されるのって、いい気はしないんだけど」
不機嫌そのものの声音で振り返った。
それは、明らかに私に向けられた言葉で、邪魔してしまった事を悪く思いながら私は姿を見せる。
「……ごめん。邪魔するつもりはなかったんだけど」
「誰かと思ったら井吹君か。あ、……せっかくだから、練習に付き合ってよ」
私が俯きチラリと沖田の顔を窺いながら、言うと沖田は呆れたような顔をした後、いいこと思い付いたというように、にんまりと笑う。
「え!?いや、俺はこの間やっと剣術の稽古を始めたばかりだし……」
「僕とやりたくない……?」
慌てふためきながら私が断ると、しゅんと寂しそうに尋ねる沖田に、また私は慌てる。
「いや、そうじゃないけど!」
そんな捨てられた仔犬みたいな目で見てこないで!
私が物凄く悪い事をした気分になる…っ!
「じゃあ、やってくれるんだね」
にっこり。
そりゃあ、もう素晴らしい笑顔でそう沖田は言ってくれました。
してやられた感がっ……!
くっそー!!私があの顔に弱いのを知っててやってるとしか思えん!
「あーもう!わかったよ!やればいいんだろ!」
「うん」
投げやりに私が言ったにも関わらず、嬉しそうに沖田が笑った。
もー……。ズルイ……。
その笑顔で、許してしまう自分も自分かもしれないけど……。
そんなこんなで、私は木刀を握る。
私から沖田に打ち込み、それを沖田が受け、打つという練習を始めた。
まあ、結果はわかりきってたけど……。
私は沖田に、かすったり当てる事も出来ず……。
もう、メタメタに打ちのめされた。
容赦なさすぎだし。
「井吹君、弱すぎ……」
なんて沖田に言われるから悔しくて、絶対いつか沖田に一本取ってやる!と心で密かに誓った。
無謀なんて思わない。
努力すれば、きっと出来るはずだ。
むん。と気合いを入れる私を沖田は、なんだか楽しそうに笑って見ていた。
あ……嘘じゃない、本心の笑顔だ……。
そう思うと同時にキュッと心臓が締まった気がした。
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