彼は誰時

平助ver

お昼を食べ終わり、片付けも全て終わった後、私は前川邸に戻らず広間に続く廊下を歩いていた。

「あれ?……平助?」

私の言葉に、縁側に座ってぼうっと空を見上げていた平助が振り返った。

「どうしたんだよ。こんな所で。練習しなくていいのか?」

「ああ、うん……そうなんだけどさ……」

私が疑問をぶつけると、平助は私から視線をずらして、また空を見上げる。
なんだか平助の様子が変だ。元気がない……。
なんかあったのかな?
それとも……。
私はそう思いながら、平助の隣に座る。
同じ空を見上げながら私は尋ねた。

「緊張してるのか?」

「……緊張っていうんじゃないんだけど……」

「じゃあ、土方さんに負けるかも〜って思ってたのか?」

平助だったら、そうは思ってないだろうな。と私は思いながら、平助を見る。

「……そうじゃねえよ。試衛館に来る前にいた道場のこと、思い出してたんだ」

「試衛館に来る前にいた道場……?平助は最初から試衛館にいた訳じゃなかったんだ?」

私の問いに平助は頷いた。

「オレさ、あそこに居着く前は北辰一刀流の道場にいたんだ」

「へぇ」

「北辰一刀流って、竹刀と防具を使う稽古が中心だったからさ。土方さんに比べると木刀の扱いは得意じゃねえし……」

なるほど。

「今までやってきた流派とやり方が違うから自信がないってことか」

「な、違えよ!」

私の言葉に面白いほど、平助は噛みついてきた。

「さっきの話を聞いたらそうなるぞ。得意じゃないなら得意になるまでやればいいだけの事だろ」

「そんなの分かってるよ。オレだって明日の試合、いきなりボロ負けするつもりなんてねえし」

「ふ〜ん?……なら俺が平助の練習に付き合ってやろうか」

ニヤニヤ。多分私はそんな顔をしながら、平助に言った。

「……龍之介、なんか総司みたいだな……」

「なっ、沖田だったら、『……へえ?じゃあ僕が相手になってあげるよ』って言うんじゃないか?」

私が沖田の声真似しながら言うと、平助は「総司そっくり!」とおかしそうにゲラゲラ笑った。
なんだか、私もおかしくなって平助と一緒に笑う。

「あ〜。よく笑った!ありがとうな龍之介!」

にっこり笑う平助の顔は先ほどの陰りは無い。
良かった。少しは元気が出たみたいだ。
それから、平助と軽く打ち合いをしたら、なかなか筋がいいって平助に誉められた。
いつか俺の方が強くなったりしてな。なんて軽口叩いたら、絶対、負けねえし!とニヤリと平助が笑いながら言った顔はずっと忘れないと思う。
back