彼は誰時

永倉ver

手持ちぶさたになった私は、壬生寺に向かう。
すると永倉と原田の声が道まで聞こえた。

「あ〜、もう、やってやれるか!好意で付き合ってやってるってのに文句ばかり言いやがって!」

「ちょ、ちょっと待てよ!どこ行くんだ!?まだ練習の途中じゃねえか!」

「二度と、てめえの練習なんざ付き合わねえよ!大体俺は、剣より槍が専門だってのに!」

せっかく、練習に付き合ってあげてるのに文句ばかりの永倉に原田がキレたって所か?
私は中を窺いながら、その様子を黙って見守る。
なんか、私が入ったら火の粉がこちらに降りかかりそうだし。と思ってたら永倉と目が合った。

「お、龍之介!ちょうどいい所に!おまえ、これから練習に付き合ってくれねえか!?」

「……あんた、手加減なんてもの知らなそうだし、見境がなくなりそうだからヤダ」

私がそう言いながら近づくと永倉は眉を下げて困ったような顔をしながら

「そんな事言わないでくれよぉ。俺が、剣術の面白さを教えてやるから」

な?と私の顔を覗き込んできた。
そんなことしても可愛くないから、却下。
プイッと顔を背ける。

「ヤダ」

「龍之介ぇ、おまえが舟酔いした時、介抱してやっただろぉ?な、頼むよ!」

パシンと手を叩き合わせ、私を覗き込む永倉に私はたじろぐ。
う……それを言われてしまうと断るに断れない。

「……少しだけだからな」

「よっしゃ!さすが、龍之介!」

むう。としながら私が了承すると、途端に永倉は笑顔になった。
どんだけ、練習相手になって欲しいんだ。
木刀を渡され私は永倉の指示通り打ち込む。

「だぁあああっ、違う!斎藤の打ち方は、そうじゃねえんだって!今度はこっちから打ち込んでくれ!」

「こうでいいのか?」

「そうそう、その調子!もういっぺん来い!」

私は現金なもので誉められるとやる気になって楽しくもなる。
気付いたら結構な時間、永倉と打ち合っていた。

「な、なあ永倉……そろそろ……終わりにしていいか?」

先に音を上げたのは私だった。
肩で息をしながら、膝に手を当てる。

「え、まだ――」

「新八、少しだけって約束だったろ」

永倉がすべてを言い切る前に原田が口を挟む。
しばらく納得できないような顔をしていた永倉だったが、仕方ないという風に口を開いた。

「そういう約束だったな。それじゃあ、おしまいにしようぜ。……龍之介付き合ってくれてありがとうな」

「おお」

そう私は返事をしながらも、しばらくそこから動けなかった。
永倉は、一人で練習を再開していた。
どれだけ、体力があるんだ……。
すごいと思うべきなのか、呆れるべきなのか。
でも、努力してる姿は素直に凄いとそう思う。

「龍之介、ありがとうな」

私がぐったりと座ると近くに原田が寄ってきてそんな事を言う。

「いや、原田にお礼を言われるような事はしてない」

私がそう言うと原田は何だか困ったような呆れたような顔をしながら、ポンポンと私の頭を撫でた。

「お前は、いい奴だな」

そう言って笑った原田の顔を私は、近くで直視してしまった。

「っ!お、俺は戻る!」

顔に熱が集まるのを感じながら、ばっと立ち上がって歩き出した私に、原田はおかしそうに笑ってた事を私は知らない。
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