彼は誰時

斎藤ver

日が暮れてきた夕方、私は壬生寺に来ていた。
そこにはすでに先客がおり木刀を振るっている。
木刀を振るうその動きは、流れるように綺麗だ。
だが、自分では納得できないのか、何度か違う角度から素振りを繰り返す。
と――その時、その人物…斎藤が振り返り私と目が合った。

「あ……ご、ごめん!邪魔するつもりはなかったんだが!」

あたふた慌てて私が謝ると斎藤は軽く頭を振る。

「いや、構わんが……何故ここに?」

「いや、前川邸に戻っても芹沢さんに面倒な事を頼まれるだけだし、ここにいようと思って」

「……なるほど」

私は斎藤に近づきながら言うと斎藤は頷く。

「少し、ここで練習を見せてもらってもいいか?」

さっきの、綺麗な無駄のない動きを見たくて私はそう頼む。

「……構わん。見ていて楽しいものではないかも知れぬが」

斎藤はそう言って再び木刀を握ろうと動くが、ふとしたように動きを止め私を見る。

「井吹、良ければ練習に付き合ってくれぬか。素振りよりも相手がいる方がやりやすい」

「へ?いや……」

私は断ろうと思ったけど、思いとどまる。

「わかった」

斎藤の強さというか、斎藤の剣術の腕には興味があった。
剣術を教えては貰ってたけど、打ち合った事はなかったから。
だから私は了承する。

「すまぬな、付き合わせてしまって」

そう斎藤は言いながら木刀を私に手渡した。
その木刀は真剣と同じ重さにしているらしく、ずっしりと重かった。
なかなか、この重さには慣れない。

「……どこからでも打ち込んでくれて構わぬ。大上段から、全力で来い」

「わかった!」

そこから、私は飽きもせず斎藤に打ち込んだ。
まあ、ことのごとく受け流されたり、さばかれたりして斎藤に当たる事もなく何度も打ち込まれたんだけど斎藤は私に対して寸止めをしてくれた。
打ち合っている間、斎藤はなんだか楽しそうで……それを私が指摘すると斎藤は少し恥ずかしげに内心を明かしてくれた。

「俺の対戦相手は、新八だからな。江戸にいた頃も、かの者とまともに打ち合ったのは数えるほどしかない。そんな新八と全力で戦えると思うと……どうも、昂りを抑えきれなくてな」

「なるほどな」

私は笑いながら、納得する。
斎藤は相当の剣術馬鹿らしい。

「……あんたは剣術の練習すれば、かなり上達するだろうな」

「本当か?」

突然の斎藤の誉め言葉に嬉しくなりながらも、私は問いかける。

「ああ。この間、剣術の練習をし始めたばかりなのに中々の腕だった」

「それはきっと、斎藤の教え方がうまいからだな」

斎藤は、本当に教え方がうまかった。
刀の握り方から、刀の振るい方まで一つ一つ丁寧に教えてくれたのだ。
ちょっと斎藤が近くてドキドキしてしまったりしたけど……。
その事を思い出しながら、そう言うと斎藤は頬を少し染め面映ゆそうな顔をしながら「そうか」と笑った。
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