彼は誰時

このまま、部屋の外には出ない方がいい。
私が行っても迷惑になるだけだ。
物音や、声が聞こえないように耳をふさぐ。
そうでもしていないと、部屋から出てしまいそうで……
駄目になってしまいそうで……

どれぐらい、そうしていたんだろう……?
気付けば、物音も声も何も聞こえなくなっていた。
気味が悪くなるような静寂。
まさか……!
私が慌てて立ち上がるのと、広間の扉が開くのは同時だった。

「斎藤!無事だったか!?皆は!?」

広間に入って来たのは、斎藤だった。

「大事ない。皆も無事だ」

「そうか……良かった……」

皆が無事と聞けて安堵で胸がいっぱいになる。
本当に良かった。
胸を撫で下ろしている私に、斎藤はひどく真面目な顔で問いかける。

「井吹、お前はずっとここにいたのか?」

「ああ。……俺が行っても足手まといだと思ったし……」

「そうか。それならいい」

申し訳なく言った私の言葉を聞いて斎藤の硬かった表情が少し柔らかくなった。

「結局、なんだったんだ?」

「賊が忍び込んだ」

「賊?」

ただの賊で……?
怪訝な顔をする私に、斎藤は静かに言う。

「かなりの手練れだった」

だから、手こずったのだと斎藤は私に説明する。

「そうか……」

斎藤がそう言うなら、そうなのだ。
でも、とか、しかしなんて言葉は頭から消す。
私は、斎藤の言葉を信じる。

「向こうでは色々と処理をしている。だから今日はこちらに泊まっていけ。芹沢局長には話を通してある」

「分かった」

素直に頷く。
私は初めて八木邸で眠る事になった。
斎藤は、私を部屋に案内する。

「安心して休め」

それだけ言い残すと、まだやる事があるとかで前川邸へ戻って行った。

"枕が変わると眠れない"
なんて、よく言うけれど、それに私が当てはまるのか、よく分からない。
だけど、私はほとんどそこでは眠る事が出来なかった。


彼らが戻ってきたのは、朝方になってからだった。
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