彼は誰時
「……あれ?朝?」
チュンチュンと雀の鳴き声と射し込む朝日に目を細める。
私は、いつも通り自室の布団の中で目を覚ました。
あれは全て夢……だったのだろうか?
だとしたら、とても恐ろしい夢だった……。
布団から起き上がり自分の手を見つめる。
あの人を刺した時の感触や音も全て……。
ギュッと握ったその手は、僅かに震えていた。
いつも通りの朝、いつも通りのご飯、いつも通りの騒ぎな筈なのに何処かぎこちない、何処か元気がない
そんな朝ご飯終え、勝手場で片付けを手伝っていると、珍しく土方さんが顔を出した。
「井吹、ちょっといいか」
硬い声に、ドクリと心臓が音を立てる。
嫌な予感というのだろうか、何か冷たいものが背筋に伝う。
いやだ
いきたくない
なんの話も聞きたくはない……
そんな思いが駆け巡る。
だけど、そんなのは許されないだろう。
「井吹君、ここはいいから行っておいで」
井上さんの後押しもあり、私は小さく頷く。
濡れていた手を手拭いで拭き、土方さんの元へ行く。
「ここじゃ、話せねえ。場所を変えるぞ」
土方さんの後ろを黙って付いて行く。
話ってなんだろう。
進める足が重い。
「なにやってんだ井吹、早く来い」
土方さんは一つの部屋の前で立ち止まり、こちらを見ながら少し呆れたように言う。
私は、そこで初めて、土方さんとのかなり距離が空いていた事を知り、慌てて土方さんに駆け寄った。
土方さんは、その部屋に入ったので私も続く。
「そこに座れ」
言われた場所に私が座ると、土方さんが腕を組みながら、目を瞑り重く溜め息をついた。
「井吹、これから話す事は他言無用だ。いいな」
真剣な深紫が私をい抜く。
ドクドクと心臓の音がうるさい。
出来るなら、今すぐにでも逃げ出したい。
そんな気持ちを押し止め、なんとか頷く。
「昨晩の事なんだが、覚えているか?」
「昨晩……」
反芻した途端、場面場面フラッシュバックするように思い出させる。
赤い瞳
白髪
恐ろしい程の回復力
そして……
「っ!」
「その様子だと、覚えているようだな」
私の反応を見て、土方さんは昨晩の騒動が何故起こったのか、そして幕命――変若水の事を話し出す。
夢じゃ……なかったのか
あの化け物も、私が……やったことも……
全てを聞き終わり、そう思った瞬間、ズンと身体が重くなった気がした。
これは、罪の重さだ。
私が背負わなければいけないもの。
「てめえは、確かに家里を斬った。だがな、最後に止めを刺したのは俺だ。てめえは間違ったことはしてねえ」
思っていることが顔にでも出ているのか、土方さんは仏頂面ながらも優しい言葉をくれた。
それを嬉しく思うも複雑だ。
土方さんから目を外して、目線を下に向けると畳が視界に入る。
そうだとしても、私がしたことは許されることではない。
私が、今まで生きてきた場所がここなら、考え方も違ったのかもしれないが、そうではない。
私のいた世界なら、これは犯罪だ。重罪だ。
人を殺すというのは、傷付けるというのは、こんなに怖くて恐ろしいことなのだ。
でも、私は死にたくない。
どう頑張ったって、殺す気で向かってきた相手に手加減なんていう芸当はできない。
死にたくないのなら……。
ぎゅ、と目を瞑り、視線を上げる。
そこには真剣に私を見つめる土方さんがいて――。
「――いい目だ」
少し目を見張ると、フッと綺麗で優しい笑みを浮かべた。
next
back