大好きな彼


「龍之介〜構って〜」

私は庭で掃き掃除をしていた龍之介に後ろからドンと覆いかぶさった。

「麻衣重い。どいてくれ」

うんざりとした声音ながらも、腕を外そうとはしない彼に、そのままだらーんと抱きついたままでいる。

「重いとか酷いなー。私は龍之介が大好きなだけなのに」

「また、そういうこと言う」

呆れたように言う彼に昔は可愛かったのにと思う。
だって、抱きついた時点でも顔を真っ赤にして慌ててたし大好きって言っただけでも、動揺して逃げ出したりしていたのに。
同じことを繰り返す内に、すっかり慣れてしまったようだった。

(つまんないなー)

「掃除が出来ないから離れてくれないか」

そう言って優しく、私の腕に手を乗せる龍之介に不覚にもドキンと胸が跳ねる。

「しょうがないなー」

そんな自分を誤魔化すように、パッと龍之介から離れると龍之介は箒を再び動かして掃除を再開させた。
それを黙って私は見つめる。
粗方片付き、龍之介はこちらを見た。
琥珀色の瞳にふわふわと癖っ毛の青い髪。
いつも、その髪の毛に触りたくなって、抱きついたついでに、こっそりともふもふしてるのは本人に秘密だ。

「俺は芹沢さんに頼まれた酒を買いに行くが…」

「一緒に行く!」

龍之介が喋っている途中で被せるように言うと彼は、ため息をつき歩き出した。
私はその後に続く。
(ため息付くほど嬉しいのかな(笑))
なんて思ってみるけど、呆れてるのが本音なんだろう。
なんだかんだ龍之介は私を邪険にしないから、私は彼に甘えている。
箒を片付けると、玄関に向かって歩き出す。
私は金魚のフンの如く、後ろからついて行く。
龍之介は自分から話しかけてくれない。
私からも話しかけない。
ただ、見ているだけ。
私は男の格好(なり)をしているが、性別は女。
紆余曲折を得て剣術の腕を買われた私は浪士組に入った。
ある日、芹沢さんに拾われた男がいると聞き、どんなやつか一目見てやろうと思って見に行った。
そこにいたのが龍之介で、興味本意で私から話し掛けたのが始まりだった。

(だけど、いつからだろう……。彼の言動や行動に心が揺れるようになったのは)

ちらりと先を歩く龍之介の背中を見る。
不器用で意地っ張りだけど、真面目で真っ直ぐで本当はとても優しい…。
龍之介は私が女だと知るとすごく驚いていたけど、変わらず接してくれた。
時々見せる彼の不器用ながらの優しさに何度救われたのだろう。
酒屋に着くと、私は一緒に店には入らず外でいつも待つ。
なんとなく、行き交う人を見ていると、そんなに遠くない場所で商人が浪士2人に絡まれていた。
ジッと見ている私に気付いたのか浪士共はこちらを振り返る。

「なに見てんだ」

「……そんなことして楽しいか?」

「てめえには関係ねえだろ」

浪士2人は刀をすらりと抜いた。
それを冷めた目で私は見つめる。

「弱い犬ほど、よく吠えるってか……」

ボソリと小さな声で呟いたのに浪士共は「なんだとっ!」と顔に血を上らせていきり立つ。

(地獄耳め)

心で悪態をつく内に、2人は刀を構え斬りかかってきた。
応戦しようと刀に伸ばした手は誰かによって捕まれ、そのまま引っ張られた。

「麻衣、逃げるぞ!」

それは、お酒を買い終わったのだろう龍之介で、私は引っ張られるままに駆け出した。

「待て!!」

浪士達が追いかけてくる気配がしたが、龍之介は京の地の利を活かして、さっさと撒いてしまった。
肩で息をしながら、たどり着いた河原に私は座り込んだ。

「べ、別に……逃げなくても……あいつらぐらい倒せたのに」

息を整えながら私が言うと龍之介は眉を寄せた。

「女のお前にそんなことさせたくなかったんだよ」

え、と私が顔を覗き込むと心なしか龍之介の頬が染まっている気がする。

「麻衣、お前は女だろ。……俺は、お前に血で汚れて欲しくないんだ。
麻衣が浪士組の一員だってことは知ってる。
剣術だって相当な力があるって知ってる。
だけどな、俺はお前に戦って欲しくないんだ。
傷付く麻衣を見たくないんだ……。
俺は剣術の心得もなにもなくて自分自身も守ることが出来ない。けど……」

一生懸命に自分の気持ちを伝えてくれようとする龍之介に自然と顔が綻ぶ。
そうやって、心配してくれることも、女扱いしてくれることも何もかもが嬉しくて。

「ありがとう龍之介。……私、龍之介が本当に好きだよ」

「そんなの、知ってる」

私がとびきりの笑顔を向けると龍之介はますます顔を赤くさせてプイッと横を向いた。
龍之介の照れ隠し……私の大好きな顔だ。
嬉しくて、私は思い切り抱きついた。
龍之介は、うわっとふらついたけど、ちゃんと受け止めてくれた。
きっと、私は龍之介に一生敵わないんだろうな。

end

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