約束


ねえ。昌浩。忘れてないよね?
私との約束を。



<約束>




「こら!もっくん!」

「もっくんいうな。晴明の孫。」

「孫いうな!!」

くわっといがむ昌浩。

「まったく、ダメじゃないか。勝手に人の意家に入っちゃ。」

「普通の人には俺は見えん。」

「そうだけどさ〜。」

ぶちぶちという昌浩の横で、物の怪のもっくんは、ひょんと尻尾をふった。

「あ!」

「え?」

小さく叫ぶような声に驚いて振り返ってみると、
そこには、昌浩と同い年ぐらいの少女が立っていた。

「……まさ……ひろ?」

首をかしげて駆け寄ってくる少女。
そして、じっと昌浩の顔を見ると言った。

「やっぱり昌浩じゃない!!久しぶりね!」

「え?」

困惑気味の昌浩。すぐに顔と名前が一致しない。

「もしかして麻衣か?」

そう言ったのは、もっくんで、
まだ昌浩は麻衣という名の少女を一生懸命思い出そうとしている。

「うん!そう!よかった〜!
 もっくんは、覚えててくれて〜〜!」

すごく嬉しそうに、笑う麻衣。
もっくんが見えるようだ。

見える……。

「あーーーっ!!!もしかしなくても麻衣!?!?」

「だからそうだって言ってるじゃないの。
 今更、思い出したの?昌浩。」

麻衣はあきれた顔をして、ため息をつく。

「忘れられてて、私は悲しいわ。」

「ごめん。でも忘れてたんじゃなくて、わからなかったんだ。
 麻衣、昔とは、その雰囲気とか変わったからさ。」

「綺麗になったもんなー麻衣。惚れるなよ?」

昌浩だけに聞こえるように、にやつきながら物の怪は言った。
そんな物の怪を無視して昌浩は麻衣にたずねた。

「そんなことより、どうして麻衣はここにいるんだ?
 確か、出雲の方へ引っ越したんじゃなかったっけ?」

「え……昌浩、もしかしてあの約束も忘れてるの……?」

「「約束?」」

もっくんと昌浩は同時に首をかしげた。
その様子を見て、わなわなと麻衣は震えだした。

「ひどい…。」

「え?」

「ひどい昌浩!!私は忘れたことなんか、なかったのに!!大嫌い!!!」

そう言って、身をひるがえして駆けていった。

「あーあ。女の子を泣かせたー。俺は昌浩をそんな風に育てた覚えはないぞ。」

呆然と立ち尽くす昌浩に、そう言うもっくん。
我に返った昌浩は、一生懸命に麻衣との約束を思い出そうと必死になっていた。

「きゃあ〜〜〜!!!」

悲鳴と同時に立ち上る妖気の気配。

「麻衣が走っていった方向!!」

昌浩ともっくんは、麻衣の走っていった方向に駆け出した。

「もっくん!先に!」

「ああ!」

もっくんは昌浩を追い抜かし、麻衣がいる場所へと向かった。



「なんなの!?こいつ!?」

唸り声のような声を発しながら、麻衣に近づいてくる。
その体系は、ネズミのような毛、体はヤギのよう。
頭からでる角は長く太い。

じりじりと後ずさりをして距離をとろうとするが、
身をひるがえして、駆けていっても、きっとすぐに追いつかれてしまうだろう。


こ、このままじゃ殺される!!


じっとりとした汗が流れる。
手と足の震えが止まらない。
心臓が今にも飛び出しそうなほど打ち付ける。


怖い……。


「麻衣!!」

その声に、はっと顔をあげる麻衣。

気がそれるのを待ち受けていたように、
化け物は麻衣に向かって突進してきた。

麻衣は必死に逃げようとするが、体が固まったように動かない。
もう、ダメだと思ったその時。

「オンアビラウンキャンシャラクタン!!」

もっくんが、麻衣の前へ躍り出て、威嚇するように唸る。
その後を昌浩が駆けながら、符引き出し気合もろとも放った。

「ナウマクサンマンダ、センダマカロシャダ、タラタカン!」

符は風の刃と形を変え、化け物へと襲い掛かる。

その時になってやっと麻衣は状況がつかめた。

「ま、昌浩……?」

恐る恐る、目の前にいる昌浩を呼びかける。

「大丈夫だよ。麻衣!絶対守るから!」

「うん。」

背中は、麻衣に向けたままだったが、
昌浩の気持ちが、とても暖かく麻衣は感じた。

「今度こそ倒す!」

そう言って右手で剣印を結ぶ。

「臨める兵闘う者、皆陣破列れて前に在り!」

詠唱とともに剣印を振り下ろすと、
絶大な霊力がそのまま光の刃と化して化け物を切り刻んだ。

化け物の絶叫が鼓膜に突き刺さり、生暖かい突風が駆け抜けた。

もう、妖気は消えうせていた。

「ふう。麻衣大丈夫?」

心配そうに聞いてくる昌浩に麻衣は笑って答えた。

「うん。大丈夫。助けてくれて、ありがとう。」

「ごめん。」

「……何で謝るの?」

「さっきの、退治するように、じい様から言われてて
 昨日取り逃がしちゃったんだ。
 だから、昨日倒しとけば麻衣が危ない目に合わなくてすんだだろ?」

辛そうに言う昌浩に、麻衣は首を振りながら言った。

「でも、助けてくれた。私は大丈夫なんだし。気にしなくていいよ!」

「ありがとう。麻衣。」

そう言って、昌浩は微笑んだ。
なんだか、その顔がまぶしくて目を細めながらも
自分もついつい頬が緩む麻衣。

「あと、約束忘れたままでいいよ。」

「え?なんで?」

ビックリした顔の昌浩に、麻衣は悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

「う〜ん…。秘密!」



だって、忘れたままの方が、
その分だけ、私の事を考えてくれるだろうから。



「昌浩!私ね。こっちに戻ってきたの。
 実は、ここ、私の家なんだよね。」

「ええ!!そうなの!?」

昌浩の驚いた顔が可愛くて、ついつい笑ってしまう。
くすくすと笑いながら麻衣は言った。

「うん。そう。
 ねえ今度、昌浩のお家に遊びに行ってもいい?」

「うん。いいよ。」

「約束、だよ!」

「うん。」

そう言って二人は指きりをした。
忘れられてる感がある、物の怪は、
すねたように突っ伏してひょんと尻尾を一つ振った。

END

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