逢えない夢、消えた君
「…へ……すけ…」
「龍之介!待ってくれ!今、そっちに!!」
藤堂は一生懸命足を動かすが、水の中を走っているように中々進まない。
逆に、井吹の影がどんどん離れて行くように声だけ残して姿が消えて行く。
「龍之介っ!!」
手を伸ばすが、その人には届かない。
「なぁ。龍之介見なかったか?」
いつもなら朝飯の時に顔を出す井吹が来なかった。
藤堂は不安そうに、広間にいた原田に訪ねる。
「いや、知らねえが……どうしたんだ?」
「さっき、部屋に行ったんだけどさ、いなかったんだよ」
なんだか胸騒ぎがすると言う藤堂に原田も眉を寄せて考え混んだ。
「芹沢さんもいねえし、使いじゃねえだろうし……」
「どうした?」
「土方さん、龍之介見なかったか!?」
その時、広間に入ってきた土方に藤堂は飛び付くように聞いた。
「井吹?……見てねえが……」
土方は訝しげな顔をしながら言うと、途端に藤堂が焦ったように口を開く。
「土方さん!龍之介のやつ朝飯も来なかったし部屋にも居ないんだ!なんかあったんじゃ!?」
「なに?」
土方の頭の中で、まさか逃げ出したのでは……と過る。
だが、根が真面目な井吹が果たしてそんな事をするだろうか…?
「新見さんが、何か知ってるかもしれねえ」
土方はそう言うと、足早に前川邸へ向かう。
藤堂と原田も後に続いた。
「新見さん!井吹のやつ知らねえか?」
なんですか、朝っぱらから騒々しい。
そう顔を歪ませる新見を無視して土方は尋ねた。
すると、新見は不愉快そうな顔をしながら
「井吹君?そういえば、見てないですね」
興味ないように言う。
「部屋にもいねえし、こっちにも顔を出してねえんだ」
「土方君……私が、井吹君の行動を全て把握してる訳がないでしょう。どこかその辺、散歩でもしてるんじゃありませんか?」
はふ。と欠伸を漏らしながら面倒そうに新見が答えると、原田が口を挟んだ。
「なんか、龍之介に命令しなかったのか?」
「命令?……そういえば、昨晩綱道さんを送って行くよう言いましたが――」
「なんだって!?一人で行かせたのか!?」
土方が声を荒げると、新見は眉を寄せて
「何か問題でもあるんですか?」
ふてぶてしくいい放つ。
「大有りだ!もし、不逞浪士にでも遭ってたらどうすんだ!原田、平助!井吹を探しに行くぞ!」
そう新見に言い捨てると土方達は部屋から慌ただしく出て行った。
(龍之介、無事でいてくれっ!)
藤堂は強く願いながら、土方の後を追った。
だが、その藤堂の願いは叶う事は無かった。
「……りゅう…の…すけ……」
細い路地で血まみれの浪士達の間に倒れている人物。
赤を纏っているけど、その髪は青くて……
着物も見たことがある柄で……
体型も何もかも……間違いなく、探していた人物だった。
「近藤さん、おかえり」
「どうしたんですか?土方さん。暗い顔しちゃって」
大阪から帰ってきた、近藤達は玄関で出迎えた土方に会った。
なんだか迎えに出て来ているのに覇気がない土方に沖田は揶揄するように言う。
「……井吹が、不逞浪士に斬られて死んだ」
「え……?」
その場にいた近藤、三南、永倉、斎藤、沖田が驚きで目を見開いた。
「なにかの冗談……」
沖田が動揺したようにそう呟くが、土方が冗談を言う訳もない事を知ってる。
そのまま、俯き何も言わなくなった。
「なんでっ……なんで、龍之介が!」
永倉が掴みかかりそうな勢いで土方に詰め寄る。
土方は静かに話し出した。
井吹は昨晩、屯所に来ていた綱道を一人で送った事
その間に不逞浪士に襲われたのだろう事
首筋を深く刺された事で井吹は死んだ事
綱道さんの死体が無かった事から綱道さんは逃げたか浪士に連れていかれたんだろう事
血まみれの浪士達の間に倒れていた井吹は満足そうな顔をしていた事
井吹の遺体は板の上に置かれ、白い布がかけられて庭に置かれていた。
そっと、その布を永倉は捲る。
「っ!!」
一緒にその場にいた近藤、三南、斎藤も井吹の顔が現れた途端、息を飲む。
(龍之介……なんで斬られたのに、そんな穏やかな顔をしてやがんだよ)
満足そうな、嬉しそうな……そんな笑った顔だった。
「龍之介、一人でよく頑張ったな」
永倉がそう井吹に労いながら頭を撫でる。
『子供扱いすんなっ!』
頭を撫でれば必ず井吹に言われた言葉。
もう、そんな声も聞けない。
永倉が広間に行くと、藤堂が端でうずくまっていた。
遠目からでも、その肩は震えていることが分かる。
(今は、放っておくしかねえか……)
泣いているのだろう藤堂をその場に残し、永倉は自室へ戻るのだった。
「まだ、綱道さんは見つからないのか!」
土方のイライラした声が広間にも響く。
まだ分からない綱道の行方。
(なあ、龍之介……。おまえは最期の時……何を思ったんだ……?)
藤堂は心の中で、そう尋ねるが応えが帰ってくる訳でもなく、ただただ受け入れがたい一人の死を受け入れるしか出来なかった。
そして、藤堂はその日夢を見た。
「…へ……すけ…」
「龍之介!?」
声が小さいが確かに井吹の声だったと周りを見渡すが暗くてよく見えない。
「…へい…すけ…」
「龍之介!どこにいるんだ!?」
確かに声はするのに井吹の姿を見つけることが出来ない。
影らしき物を見つけ、そちらに向かって走るが、水の中で走っているように中々進まない。
「…へ……すけ…」
どんどん、その影から距離が離れていくだけで、近づく事はない。
「待ってくれ龍之介!オレ龍之介に聞きたいことがあるんだ!」
必死に手を伸ばすが、その手に何も掴む事ができず……。
目をパチリと開けた藤堂は、起き上がり寝床の中で苦し気に手を握る。
「龍之介……」
逢えない夢、消えた君
(夢でいいから、逢いたい)
end
あとがき。
すみません!
またもや龍之介の死ネタで暗いです。
ノーマルバッドエンド後って、どうなったのか分からないじゃないですか。
なので、こうだったんじゃないかなぁと……
どうなんでしょう?
沖田さんは、私の妄想100%なので原作だったら違う反応かもしれないなぁと思います。
一応、みんな龍之介のこと大好き設定ですので(笑)
それにしては、原田さんと斎藤さんの独白がありませんでしたね(苦笑)
タイトルお借りしました。
http://nanos.jp/yukinohana7 秋桜
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