うんざりな旅行


「ってことで、龍之介も旅行に行こうぜっ!」

「なにが、"ってことで"なんだ!何も説明も無しになんだよ!?」

授業が全て終わり、龍之介が帰り支度をしている時に平助がバタバタと騒がしく教室に入ってきたと思ったらコレだ。
自分の席に座りながら呆れたように返す龍之介に平助はバンッと龍之介の前にある机を叩くとズイっと顔を近付け興奮したように口を開いた。

「だ〜か〜らぁ〜!皆で旅行行こうって言ってんだよ!」

平助の話によると、近藤さんが慰安旅行に行こうと提案し、それを"たまたま"聞いた沖田が「近藤さん、それなら皆で行きましょうよ。その方が絶対楽しいですって」と言ったのを「おお、そうだな!」と土方さんが止めるのも聞かず近藤さんは了承し、そして昔の仲間である面々(近藤、土方、沖田、原田、永倉、斎藤、平助、山崎)で行くという話になったらしい。
沖田がどうせなら井吹君も…とかなんとか余計な事を言ったらしく平助が俺を誘う役割になった様だった。
なんで男ばかりの旅行に行かなきゃならないんだ。

「悪いけど、毎日バイトがあるから無理だ」

「え〜〜っ!?」

「ま、そういう事だから楽しんで来いよな」

不平不満顔の平助を放って、じゃっと手を上げてさっさと立ち去ろうと龍之介はするが、腕を掴んできた平助に阻まれる。

「待てよ!バイトなら1日ぐらい休み取れるだろ!?」

「無理」

腕にある平助の手を退かしながら龍之介はそう言い放つと今日のバイトに行くため踵を返した。
慌て平助はその背中に追い縋る。

「頼むよ龍之介っ!」

「俺には生活が掛かってるんだ!だから休むなんて無理だって!」

平助は逃がすまいと腰に手を回しホールドする。
龍之介は、その手を離そうとするがガッシリと掴まれた手は離れようとしない。

「龍之介が行くって言うまでは離さないからなっ!」

いい加減、イライラしてきた龍之介。

「いい加減しつこい!バイトに遅れるだろうがっ!」

龍之介は思い切り体を動かすが、平助は離すもんかと力を入れる。
龍之介は平助を無視することを決め込み、そのまま平助をズルズルと引きずりながら歩き出した。
やっと教室のドアまでたどり着いた時

「そこで、なにやってんの」

「総司っ!」

沖田が腕を組んで龍之介と平助を見下ろしていた。
その時、沖田が現れたことで自分の味方が増えたと安心したのか平助の掴む手が緩んだ。
その隙をつくように龍之介は素早く体を捻ると、平助の手は呆気なく離れ龍之介は、そのまま2人に背を向けるとダッシュで走り去ったのだった。

「(バイトに遅れるっ!)」

****

なんとかギリギリ間に合った喫茶店のバイト。
今日もきっちり働きスタッフルームで着替え帰り支度をしていると

「井吹さんお疲れ様です。いつも沢山バイト入ってくれてありがとうございます。本当に助かってるんですよ」

後から、入ってきた店長に声を掛けられた。

「いや、給料もいいし、逆にこっちが助かってるぐらいだ」

「そうですか?無理だけはしないでくださいね。休みたくなったら、いつでも休んでいいんですから」

店長は心配顔で龍之介を覗き込むと真剣な目付きをした。

「わかってるよ。だけど、バイトしないと生活出来ないからな」

龍之介は店長の言葉に頷きながら、そう言うと店長は困った様に笑う。

「それじゃあ、お先に失礼します」

龍之介はカバンを持つとスタッフルームから出て帰り道を急いだ。
龍之介が働いている喫茶店は昔の仲間である、島田魁が経営している。
ここの面接を受けた時、龍之介は店長である島田に会えたことを驚き喜んだ。
だが島田の方は昔の事を全く覚えていないようで驚いている龍之介を不思議そうに見ていただけだった。
学校の面々は、記憶があっただけにガッカリもしたが、記憶が無いのが当たり前なのだ。
記憶は無いが、島田は昔と変わらず人の事を心配している。
その事実が嬉しくもあるのだ。


次の日学校。

「井吹くん。明日の朝7時に迎えに行くから準備しておいてね」

沖田が閉口一番、よくわからない事を言い出した。

「はぁ?」

「だから、明日の朝7時に井吹くん家まで迎えに行くから玄関に出ててよね」

「いや、明日は沖田となんも約束してないだろうが!つか、何の話だよ!?」

「旅行だよ。昨日、平助から聞かなかった?」

「聞いたが、俺はバイトだからって断ったんだが」

「ああ、それね。昨日僕がわざわざ君のバイト先まで行って店長に話つけておいたから大丈夫だよ」

「はぁっ!?なんで!?」

「バイト入ってるから行けないって断られたけど旅行一緒に行きたいって言ったら『どうぞ行ってきて下さい』だって。島田くん変わらないね」

「……」

「だから井吹くんは、明日からの土日はバイト休み。これで、心置きなく旅行行けるし良かったね」

ニコニコ顔沖田にガクッと崩れ落ちる龍之介。
ああ、来月はあんぱんも食べられない日があるかもしれない。
いや、今日店長に言えば、まだ大丈夫かもしれない。
沖田達には当日に無理になったと連絡しよう。
よし。と龍之介は心に決めると今日もバイトへ向かうのだった。

「あのさ、店長明日のことなんだが…」

「ああ、明日学校のお友達と旅行なんですってね」

「それのことなんだが…」

「言ってくだされば良かったのに。こちらは大丈夫ですので楽しんで来てくださいね」

今、まさに明日のバイトについて店長に話そうとしていた龍之介は、笑顔で言う店長のこの言葉によって話せなくなった。

「……」

「…?井吹さん?」

きょとんと首を傾げる島田に苦笑しながら龍之介は礼を言うのだった。

****

「龍之介おはよー!」

「おはよう井吹くん。ちゃんと起きれたみたいで良かったよ」

平助はブンブンと手を振りながら駆け寄り、沖田はマイペースに歩いてくる。

「はよ」

ブスッとしながら挨拶をし地面に置いてあったボストンバックを持ち上げる龍之介に平助は気にせずバンバンと龍之介の背を叩いた。

「龍之介が来てくれて嬉しいよ!」

「そうかよ」

いたたっと龍之介は顔を歪ませる。
ニコニコと平助はしながら、はい!と龍之介に向かって手を差し出した。
その差し出した手の意味が分からなくて首をひねりながら、平助の顔と交互に見ながら口を開いた。

「その手なんだよ?」

「決まってるだろ!手を繋ぐんだよ!」

「はあっ!?」

「はいはーい。ここでグダグタしてないで、さっさと行くよー」

龍之介が文句を言おうとするのを遮るように、龍之介と平助の間に入った沖田は、ハシッと龍之介の手を取ると歩き出した。

「あー!ずりぃっ!」

慌ててついてくる平助に沖田はニヤリとしながら口を開いた。

「土方さんの雷が落ちる前に早く行かないとね」

「それは分かるが手を繋ぐ意味がわからんっ!離せよっ!」

龍之介がそう意見するが、沖田はにっこりと微笑むだけで聞き入れる気が無いようだ。
そのまま龍之介の手を引いてずんずん進んで行く。
平助はくっそーと言いながら妬ましそうに繋がれた手を見ていた。


「遅い」

「ごめんごめん」

いつもの無表情とは違い不機嫌そうな顔をした斎藤がワゴン車の前に立っていた。
沖田はへらへらと謝り龍之介の手を引っ張りながら近づく。
その様子を見て斎藤は眉を寄せた。

「沖田、ここまで来たんだからいい加減手を離せよ」

「そうだよ総司!」

「しょうがないなぁ」

龍之介がそう言うと平助も便乗する。
そこでやっと離された手。
そのまま龍之介は車に乗り込むためドアを開けた。
後ろの席には近藤さんと土方さんが既に座っており、原田が降りながら

「ちゃんと来たんだな」

「原田」

「原田先生だろ」

ガシッと肩に手を回され、促されるまま乗り込みその隣に原田が座る。

「あーーーっ!左之さんずりぃっ!」

あとから乗った平助がギャーギャーと煩い。

「左之、その手を離せ」

斎藤は殺気立って、原田を睨み付けている。

「左之さん、いい度胸ですね」

ニコニコとしながらも、目が笑っていない沖田。

「早いもんがちなんだよ」

にやりとしたり顔をする原田。

「早くそこから退いて下さい」

「そうだぞ早く退けよ」

「それは出来ねえ相談だな」

もうなんでもいいから、早くしてくれないだろうか。と龍之介がそう思っていると

「てめぇら、いい加減にしろっ!出発出来ねえだろうが!!」

土方が我慢出来ないというように声を上げる。

「土方さん、いたんですか」

シラッと沖田が土方に視線を投げる。

「いいから適当に座れ!!」

土方は近場にいた平助の頭をバコッと叩いた。

「いてぇっ!なんでオレだけ!」

恨みがましく、平助は土方を睨み付けると仕方ないという風に原田の隣に座る。
斎藤が土方の隣に座ると沖田は助手席に座った。

「あれ?そう言えば、山崎君は?」

平助の言葉にそういえば、山崎も誘うという話しだったと龍之介は思いだした。

「山崎は先に行ってる。新八出発しろ」

「あいよ」

永倉が運転手らしい。
なんだか大丈夫か不安だが信じるしか無いだろう。
エンジンが入りゆっくりと動き出したと思ったら

ぼすんっ

「あ……」

変な音をたてて車は止まった。
いつになったら旅行先に着くのだろう。
龍之介はこっそりため息をついた。


続く予定。

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