降り積もる白い結晶



「このまま、井吹は助からない方がいいのかもしれねえ」

いつだったか、ポツリと呟かれた幹部の声。
聞こえによれば冷たい言葉。

確かに、そうかもしれない。
井吹は、芹沢さんの事といい、羅刹の事といい……
知ってはいけない事を知ってしまっている。
それに、せっかく助かっても……

そんな考えが浮かばない訳は無かった。

だけど、それでも

友を……

……大事な人を

失くしたくなかった。

下がらない熱
苦しそうに歪める顔

普通ならば、うめき声ひとつあってもいいのに、それすらない。
今は包帯が巻かれて見えない喉に走る一文字の傷。
これが、声帯を傷付けたのだろうと理解する。
理解していても、信じたくは無かった。
もしかしたら……
という想いを捨てきれない。

「井吹……すまない。俺が、ちゃんとおまえを止められていたら……きっと、こんな事にならなかったのに」

なぜ、あの時……俺は上手く引き止められなかったのか。

俺のせいだ

井吹が、こうなってしまったのは……

己が至らなかったからだと自身を責めながら、山崎は熱くなった手拭いを井吹の額から取り上げ、盥の水に浸ける。
程よく手拭いを絞ると再度井吹の額に乗せたその時、井吹が薄目を開けた。

「井吹!?」

ヒューヒューと荒い息を漏らしながら、井吹は何かを伝えようとするように口を開く。

『…………』

だが、それは音にはならなかった。
それを見て、"やはり"という感情と、その現実の絶望感が、頭を心をぐしゃぐしゃにする。

「辛い、のか?……そうだろうな……」

既に温くなっているだろう手拭いを拾い上げようと手を伸ばした時、その腕を井吹は掴んだ。

『……〜〜〜っ、〜〜〜!』

弱々しい力で、俺を見上げながら井吹は声にならない声で、叫ぶ。
分かるのは、何かを必死に伝えようとしていること。

「……すまない……井吹、君の言いたい事が分からないんだ……」

熱くてしょうがないからなのか
俺を責めているようにも思えるような……

ボロボロと涙を流す井吹に何をしてあげる事も、何を伝えたいのか分かってあげる事も出来ない。
不甲斐ない己に苛立ちと怒りが込み上げた。




あれから暫く時が経った。
井吹は奇跡的にも助かり、今では起き上がり動けるようになった。

まだ病み上がりだというのに、時として部屋からも抜け出している。
今日も、そうであったようで、部屋はもぬけの殻だった。

「井吹?」

この、あばら家からは流石に出てはいないだろうがと、部屋から出ると縁側に井吹がぼうっと座っていた。

「井吹、いつからそこにいたか知らないが、身体を冷やしてしまう。そろそろ中に戻れ」

『ああ、山崎か……。わかった。だけど、あともう少しだけ』

顔と琥珀色の瞳がこちらに向くと、そう口が動く。
今だったら、口の動きや身振り手振りで井吹の言いたい事は分かる。
あの時の井吹は、俺に何を伝えたかったのだろう……。
山崎は、あの光景を思い出し、軽く頭を振る。

縁側に座る井吹が、もう一度ついと空へ顔を向けるとチラチラと雪が降り始めた。
空を見上げているけれど、その瞳は空より遠くを見つめている。
君が、一体なにを見ているのか
なにを思っているのか
大体の予想はつく

だけれども……



ふわふわと
降り積もる白い結晶

手のひらに触れればその瞬間、消えていく

それは

今にも消えてしまいそうな、君の様で……

「っ!井吹!」

山崎は不安になって、井吹の肩を掴み身体をこちらへ向けさせる。
驚いたように瞬かせる瞳は確かに自分を見ていて

『ごめん、山崎。もう戻るから』

慌てる、いつもの君に安堵して……

こうやって生きていてくれる事に
反応を返してくれる事に
いとおしさが込み上げて

だけれど、悪態や余計な事を口走る、あの声が聞けないのが悲しくて
こんな風にしてしまった、己が許せない

「たっ!」

ばちんという、小気味いい音と共に、山崎の額に痛みが走る。
目を向ければ、怒ったような表情の井吹が手を下ろしたところだった。
そのままの動作で懐から筆と紙を出すと井吹は何かを書き出した。

【おまえは、またそんな顔をする。そうやって自分を責めるな】

「!…だが、」

己があの時、止められなかったから
悔しさと申し訳なさで、俯き唇を噛む。

上から、ふぅとため息が聞こえ、顔を上げると

『山崎』

井吹は困ったように笑いながら続ける。

【おまえに、こう言っても意味はないかもしれないがな、山崎のせいじゃないぞ。それに、こうなった事を俺は後悔してないんだ】

清々しいほど、晴れやかに笑う井吹は嘘をついているとは思えなくて

「……そうか……」

そうなんとか言った俺は、多分情けない顔をしていたんだろう。
井吹は、また困ったように…だけれども仕方ないなというように笑うから。


end


うーん。
崎→龍な話を書きたかったはずなのになぁ
片思いにもなってないような…(汗)
この二人コンビは物凄く好きなんだけども
うまく書けないなぁ(T-T)
確認してないので公式の季節設定と違うかもしれません;


タイトルお借りしました。
http://nanos.jp/yukinohana7 秋桜


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