嫉妬

土方さんの立場を考えれば忙しいのだから会えないのも構ってもらえないのも当然仕方がない。
でも寂しく思ってしまうのも仕方ないじゃないか。
甘えるなんて恥ずかしいし、それ以上にどうすればいいかわからない。ただ疲れている土方さんにわがままなんて言えるはずもないのは確かで。
ぐるぐると回る思考に答えは出ることはなく、項垂れている俺の頭がぽんっと手が乗っかった。

「どうしたんだよ?悩み事でもあるのか?」

上を見上げれば微苦笑を浮かべる原田と目が合い、ん?っと首を傾けられた。
普段なら何でもないと頭に乗った手を振り払ったんだろうが、この胸に蟠る感情をどうにかしたかった。
ぽつりぽつりと口から言葉が零れた。

「ようは土方さんに構ってもらいたいんだろ?普通にそう言えばあの人だって甘えさせてくれるだろうに」

「それが出来たらこんなに悩んでないさ。最近は特に忙しいみたいだし」

「確かになここのところあの人も忙しくしてる。まぁ、俺が協力してやるよ。……っといいところに…」

ニヤリと笑みを浮かべた原田の表情は後頭部に回された手に力が入れられたことによって一瞬でぶれて、鼻が触れ合う距離に近づけられた。
咄嗟に離れようとするのを抑えられ、その数秒後には解放された。

「なんだったんだよ今のは!」

「すぐに分かるぜ?恐らくあの位置からならちゃんとそう見たえだろう」

意地の悪い笑みを残し原田は俺を残して立ち去った。
どうせ呼び止めても教えてくれる様子もなさそうな上にすぐに分かると言った言葉を信じて原田の背中を見送った。



それから芹沢さんから言われた雑用を終わらせ落ち着いた頃にはとうに日が暮れて月が登っていた。
伸びをしながら昼間のことを思い出す。
原田の突飛で謎の行動。すぐに分かると言われたが、まだ何のことなのか分からず仕舞いだった。
気になるが今さら聞きに行くのもと面倒だなと思った時、後ろから名前を呼ばれ振り返った。

「土方さん?」

そこには土方さんがいた。しかしいつもより眉間の皺が深く刻まれていてどうも機嫌が悪いようだった。
どうしたと問う前に腕を引かれたので黙って付いていく。ここで下手に口を開かないのは芹沢さんの側にいて学んだからだ。鉄扇で殴られるなんてことはないが怒りを爆発させてしまうなんてのは御免だ。
そして数分して連れて来られたのは土方さんの自室だった。
ピシャリと閉められた障子戸に意識を向けた瞬間視界がぐるりと回り、背中を強かに打ち付けた。土方さん越しに天井が見え、押し倒されたんだと冷静に考える俺がいた。

「井吹、お前は無防備過ぎなんだよ。だから昼間も……」

「……昼間?」

何のことか分からず首を傾げれば舌打ちをされた。近付く土方さんに訳が分からず戸惑っているうちに唇が重なり合い無理矢理舌を捩じ込まれた。口内を無遠慮に荒らされる接吻は呼吸を奪うほどに激しく、飲み込みきれなかった唾液が口端を伝い流れた。
ただ何かをぶつけるような獣みたいな口付けが怖くて思わず差し込まれた舌を噛んでしまい、鉄錆びの味が口の中に広がったと同時に土方さんが離れる。

「痛ぇじゃねぇか。そんなに俺と接吻するのが嫌なのか?」

それだけで人が殺せそうなほどの睨みとドスの効いた声にに身体が硬直する。違うと口を開くが声が出ず、ただ魚のように口を開閉するだけで終わり首を振ることでなんとか伝える。
再び舌打ちの音が鼓膜を震わせ、怖さと訳の分からなさから情けなくも視界が滲み出した。

「くそっ。泣くんじゃねぇ」

溜め息を吐いた土方さんは俺の上から退いて髪をぐしゃぐしゃと掻いた。その様子からはさっきまでの怒りや殺気はなくなっていてほっと一息吐いた。

「すまなかった。怖がらせたり泣かせるつもりじゃなかったんだ」

頭を下げる土方さんに慌てて身体を起こして肩を揺すった。
頭を上げた土方さんは床に視線を落とし罰が悪そうにしていた。

「どうしたんだよ土方さん?何かあったのか、それとも俺が何かしたのか?」

「昼間お前が……」

「昼間?」

さっきも言っていたが昼間何かあったのか。俺はじっと土方さんを見詰めて続きを待つ。しばらく言いにくそうに視線をさ迷わせていたが、俺が黙っていることに観念したのか深く溜め息を吐き出し話し出してくれた。

「昼間お前が原田に接吻されてただろう。それで腹が立ってたんだよ」

その言葉にようやく昼間の原田の行動が繋がった。思わず笑ってしまった俺に土方さんが睨み付けて来たので一言謝り、原田に相談したことからすべてを説明した。
それを聞き終わった土方さんは疲れたと言わんばかりに脱力し、俺を抱き締めた。

「良かった」

耳元で囁かれたその声は吐息交じりの掠れた声だった。
俺のせいで無駄な心配させてしまったことに申し訳なさと、それ以上に原田に嫉妬して俺を心配してくれて嬉しかった。
せっかく原田が作ってくれた機会だし、今日は今までの寂しさを埋めるくらい思い切り甘えようと土方さんに抱き付いた。

「土方さん、さっきみたいなのは怖いけど俺あんたと接吻するの嫌いじゃい。今度はいつもみたいなのしてくれよ」

土方さんの唇に触れるだけの口付けを落とせば、今度は土方さんから口付けられる。
最初は触れるだけの口付けも次第に深まり舌と舌が絡まりあうものになった。

「今日はたっぷり優しくしてやるが、お前が煽ったんだからな?途中でやめてやねぇがいいか?」

「ちゃんと優しくしてくれよな、土方さん?」

額を合わせクスクスと笑い合い、どちらからともやく口付けを交わした。

end