メイドin学園祭

秋も深まり、周囲の木々の葉が色づいてくる。
学園内では別の意味で生徒たちが色付き浮かれたその表情――そう。学園祭だ。
クラスそれぞれで企画を出し、予算を立てた上で出し物を決める。クラスが一体となって協力し合うこの一大イベントは少なからず誰もが普段とは違った雰囲気にわくわくと心躍らせる。
――が、ここに憮然と口をタコにしたまま睨みを効かしている女子生徒が一人。

「なぁぁ井吹ぃ。頼むよお前もやってくれってぇ」
「雪村さんだって、やるって言ってんじゃん。それでなくても女子少ないんだからさぁ。頼むよ」
「ふっざけんな。笑いモンにする気なのバレバレなんだよこのクソ男子共!!」
「「「しねぇよ!!」」」

複数の男子生徒の声がハモる。
するとこのクラスの担任が様子を見にやって来た。

「おう、どうだ何やるかだいたい決まったか…って、なんだどうした」
「先生。井吹が非協力的でマジ困るんすよ」
「は?」
「だーかーらー!なんであんなん着んだよ、ただの喫茶店でいいだろが!」
「それじゃ意味ねぇんだよ!!客寄せには何かインパクトねぇとさぁ!!」

原田は教室内の何やら険悪な雰囲気をすぐに察知してから、黒板に書かれたその文字と会話の内容を聴いておおよその事を察知した。そして、目に入った雪村に声を掛ける。

「お前はいいのか?」
「私は…お役に立てるなら…ただ、龍ちゃんが」
「ふーん。…メイド喫茶ねぇ」

未だに男子達と言い争いが絶えない龍之介のその姿に、苦笑を浮かべてため息をついた。

***

「――なんだかはめられた気がする」

結局、その場の雰囲気を打開したのは担任の原田で
学園祭の頑張り度が今後の内申書にも左右されるのと、毎年学園祭はクラス対抗で最優秀賞クラスには何かと優遇され、豪華賞品も得ることができるのだと。
それにはクラス全員のやる気度が更に助長し、龍之介の意見なぞその周囲の火に瞬時に灰にされるが如くチリとなった。

「いや嘘は言ってねぇぞ?」

原田は笑いながらそう言うと、龍之介は未だに不貞腐れた顔でプリントされた企画書を眺める。
正直龍之介自身、内申書や豪華賞品に揺れ動いたのは事実であり渋々ながら最後には了承してしまった手前今更引けない。

「龍ちゃん、頑張ろうよ。それにクラス全員が一緒に一つの事をやり遂げるって学園祭の醍醐味じゃない??楽しめばいいんだよ」
「――千鶴、楽しそうだな」
「え?だって楽しみだよ!そ、そりゃメイドさんの格好はちょっとアレだけど…」

少し困ったように眉を下げるが、雪村は笑って

「こんな機会ないと、着れないじゃない?」
「…………できれば一生縁なんてなければ良かった」

ため息交じりに言うと、原田はそんな二人を眺めながら

「まぁ学園祭ってぇのは楽しんだ者勝ちよ。どう楽しむかは自分ら次第だ。頑張れよ」

そう激励しながら微笑むと、それに気持ちいいくらいに「はい!」と答える雪村と対照的に龍之介は深いため息をついた。

***

「――冥土喫茶?珈琲の代わりに引導でも渡すのか」
「一君。文字完全に勘違いしてる」

無表情真顔で一言言う斎藤のその言葉に異を唱えるのは藤堂。
山崎が丁寧に斎藤にどんなモノかをタブレットを見せながら説明している他所で、沖田はさっきから

「ふーーーーーーーん」

何か言いたいことがあれば言えばいいものをさっきからふーんへーほーん、とイラつく思案語を隣で発していた。ここでツッコミを入れたらコイツの思うツボ、と龍之介は反対方向を向いてズコココとジュースを鳴らして飲む。

「あ、あの、沖田先輩たちのクラスは何をやるんですか?」

見かねた千鶴が話を切り替えて言うと、

「僕等はタコ焼き屋。ね。」
「うん。そう!俺もいっぱい食う!!」

沖田と藤堂のクラスと言えば、担任は土方。学園祭ではなんとも定番な、と思案していると

「俺達はお化け屋敷だ」
「何気、発案は永倉先生だがな…やる気度が生徒より俄然多い」
「あはは…想像つきます…」

永倉は、いっそ生徒側にポジションを置いた方がいいんじゃないかとまで思える。それだけ子供心が旺盛なのだ。微笑ましいのだけど、と雪村は笑う。

***

「――は?ツンデレ喫茶?」
「いや誰もそんな事言ってねぇ!土方さんアンタ耳鼻科行け!!」

煙草を指に挟みながら原田のクラスの企画を聴いた土方は真顔で返すから、原田はついついツッコミ返した。
すると居座る目で煙草の煙を吹かせながら

「原田のクラスでメイド出来るのなんざ雪村だけだろうが」
「いや、もう一人いんだろ」
「だからソレ、メイドじゃねぇ。ツンデレ」
「つ、ツンデレ…!!」

と、そこに1人反応したのは、永倉。同じく喫煙所でゴファとむせこみながら煙を吐き出しつつ手で顔を覆って

「……やべぇって、メイドでツンデレって究極じゃねぇか!?」

………お前、そんな趣味?

土方と原田は心の中で同じ言葉を吐いて、顔を赤らめて悶えている永倉を引いた目で見る。

「――まぁ、女子生徒少ないからなぁ。確かに女子生徒居るクラスなら考えられなくもない企画だな」

土方は気を取り直してそう言うと原田も笑いながら

「だろ?俺は結構イケるんじゃねぇかとは思ってんだけどな。ま、贔屓目に見てだけどよ」

***

「……………」

顔に影つけて姿鏡の前で仁王立ちする龍之介。
それを後ろからキラキラした目で見つめるのは

「龍ちゃぁぁぁ!!か、可愛いーー!!!めっちゃかわいいいぃぃ!!!」
「小鈴、お前ほんとに目医者行ったほうがいい」

思わず抱き着く小鈴に身体を揺らされながら、龍之介は居据わった目で冷静にそう言い放つ。

「あら。そんなことないです。龍之介さんお似合いですよ」

衣装を繕ってくれた梅さんの家で、出来上がったメイド服に袖を通した二人。
雪村も少し恥ずかし気に自らを見下ろして、ふわりとした膝上丈のスカートに心元ないと無意識に内股になる。

「千鶴ちゃんも似合う似合う!すごく清楚な上にメイドさんって時点で世の男共は一発KOね!」
「せ、千ちゃん…!」

カァァと顔を赤く染める雪村に反して、一方で仁王立ちの龍之介。
梅の手にかかればプロ真っ青のこの完璧な衣装の出来上がり具合。コレはひょっとすると売れるんじゃなかろうか…と真剣に考えてしまう。
黒で統一されたワンピースは腰の括れを強調してからふわりとしたスカートが下りる。
首元は白のブラウスがしっかりと上までボタンが留められ丸襟が覗くそこに黒のリボンタイ。半袖部分は二の腕でキュッとすぼまり細さが強調される。
上からはメイド特徴の白のエプロンドレス。レースやフリルで飾られたそれが後ろで綺麗に蝶々結びされ、そして極め付けの頭の飾り。白のカチューシャはメイド特権だろう。
脚には黒のニーハイが太腿途中までの丈で覆われ、スカート丈とそのニーハイの間からチラリと覗く肌がやけに白く目に映る。
着る側にしてみればどちらかと言えば窮屈だ。しかし逆にだらしなく着ることのできないこの服装は主人に仕える側として戒めにも思わせられる。
確かに雪村が着ると忠実なメイドと言われてもおかしくない。
本人には言えないが幕末当時、龍之介より忠実な犬であったのは雪村の方だったのは間違いない。

「…男っちゅーのは、こんなものに萌えぇとか言っちゃうんですか?俺、確かに元男だけど…無いよナイナイ」
「私、萌えるよ?龍ちゃん食べちゃいたい」
「……小鈴にならいい」
「はいストーーーップ!その会話広げてんじゃないわよアンタ達ーー!!」

百合ですか!また随分小鈴が積極的過ぎてシャレにならんがなー!と千が小鈴を引き剥がす。そして改めて雪村と龍之介を見比べて一言。

「―――これは、随分と対極的なメイドさん達です事」

千は可笑しそうに笑いながら言うと、梅も同じことを思ったのかクスクスと笑う。

***

学園祭当日――。

毎年大盛り上がりの薄桜学園の学園祭は、今年も例年通りの反響ぶり。
いい天気にも恵まれて、露天や学内でも各クラスが客を呼び込む為に威勢のいい声が響く。

「――おい総司ぃ!!お前も手伝えよ!さっきから寛いでんじゃん!!」
「僕は売り子じゃないし。割り当てられた仕事はもう終わったんだからねー」
「ちょ、テメェ!ちょっとくらい客呼び込めよ!!」
「そんなの土方先生に任せりゃいいじゃない」

藤堂のその言葉も虚しく、クジ運のいい沖田は材料を切る担当でノルマをとっくに達成して寛いでいた。
すると目の前を通り過ぎる他校の男達の声が耳に入る。

「なぁ、一年のクラスでメイド喫茶やってるらしいぜ?」
「マジで?此処、男ばっかじゃん。女居んの?」
「それが居るんだって。結構可愛いんだって。つか、メイドなのになんだかツンデレな子が居るって話…」
「メイドでツンデレって…ちょ、見てみたいっ」

そんな会話。
沖田はスマフォを弄りながら通り過ぎていく男達の後姿を見送って間を空けてから立ち上がる。

「――平助。僕ぶらり旅して来る(笑顔)」
「ちょ!ずっりぃぃぃ!!!」

頑張ってねぇーと沖田はその場から去る。
ふと、ばったりと廊下で出会ったのは斎藤。

「一君じゃない。どうしたの休憩?」
「ああ。俺の持ち場は元々ない。どちらかと言えば風紀委員の仕事の方が優先だからな」

なるほど腕章がしっかりと左腕に付けられていて、顔はもう風紀委員だ。沖田は考えた末に

「――ね。一君も巡視がてら一年教室回ってみない?」
「……確かにまだその棟には行っていないが…」
「この校内である意味で風紀乱れそうな場所、僕知ってるんだよね」
「――――どこだそれは」

ピクと斎藤の真顔に影が差す一方で、釣れたーと腹黒い顔で笑う沖田だった。

***

一年一組。
看板にメイド喫茶と書かれたその教室は、何やら行列が出来ていた。
そしてまるで従業員のようにそのクラスの男子達が対応している。

「いいですか。お触りは禁忌です。写真撮影もご遠慮下さい。これはオプションなので別料金頂きます…そちらをご利用ください」

随分と手慣れた対応をする従業員(男子生徒)はどこぞのパブの受付かと見事な説明ぶり。
しかしなかなかの繁盛ぶりで見廻りに来た教師も呆気にとられていた。

「――おいおい。どんだけだ」
「お。土方先生じゃねぇか。ウチの店寄ってくか?」

どこか自慢げに言うそのクラス担任である原田は、ふすすと鼻で笑いながら土方に言う。
それには面白くないとばかりに目を居座らせているとガラリとドアが開く。

「次のご主人様のお帰りです」

男子生徒がそう言うと、中から姿を現したのは――

「お帰りなさいませ――ご主人様vv」
「(ぶっ)」

雪村の、慣れからのものか捨身なのかそれとも本性を現したのか、メイド気質ばりばりモードのその声と絶妙な首の角度に悩殺笑顔。
客として入る男子生徒のその真っ赤な顔で戸惑うその狼狽えっぷりを横目に土方は開いた口が塞がらねぇとパクパクしていた。
すると原田は横からしみじみと

「いやあ…あの時代にこんな遊び心があったらよぉ…素でアイツ、俺等のメイドだったよな?」
「おま、なんつう想像してんだーー!!」

確かにそうかも知れねえけど、お前が言うと不純な考えまで含まれていてそうで恐ろしいわーー!!と土方は場を忘れて原田の胸倉掴んで怒鳴る。
そして少し冷静になった所で、もう一人の存在を思いだした。

「…おい原田。まさか雪村だけじゃねぇだろ…もう一匹は、」

と言いかけた所でバンっとドアが開く。それにはビクっと胸倉掴んだままに土方も顔を向けると、そのドアからまるで放り出されるように男が転がり出て来た。
そしてその後から続いて出て来た人物は躊躇なくガスっとその男を足で踏みにじりながら腕を組み、上から男を見下したその…メイド。

「―――とっととどこにでも行けばいいじゃん?俺みたいな使用人なんか相手にしないでどこぞのご令嬢とでもイチャコラしてくればいい――どうぞいってらっしゃいませークソご主人様ぁvv」

凍てつく眼差しで半笑いになりながら、口を挟む間も与えないで言うそのセリフ。
そして最後には、超絶の笑顔でくそをプラスしたご主人様にハァトを付けた甘い声。

「た、た、龍美ちゃぁぁん!!そ、そんな俺はお前だけだよ!俺にはお前だけなんだってぇぇ!!必ず帰ってくるからぁぁぁ!!!」
「「…………」」

――――ツンデレっていうか、ドSメイドぉぉぉ!!

ええええええっと固まる土方に、それを見てさっすが龍之介ぇと我が生徒を満足気に眺める此処の担任原田。

「…そんでもって何をしてんだ新八ぃぃ!!テンメェ何処にも居ねぇと思ったらこんな所に入り浸ってやがったのか!!」

足蹴にされていたのは永倉だったというオチ付き。
すると転がっていた永倉はのそりと座り込み頭を項垂れつつ

「やっべぇーー…マジたまんねぇーもっと蔑まれてえぇー」

…項垂れつつグフグフフと肩を揺らすそのジャージ男に、「「え”」」と教師二人は固まる。

「………新八さん?もしや、新たな扉開いちゃいました?アレ、どう見てもツンデレの域を超えてるかんな?どっちかってーとバイオレンスに近ぇぞ?」

アンタ、そっち趣味だったっけ…と心配をよそに何故かハァハァ言い出す長蛇の列の男共。
え、まさか此処の男共みんなそれ目当て?足蹴にされたい系?蔑まれたい系?
可笑しいな、メイド喫茶ってもっとこう…ふわふわしてなかったっけー…。俺の知識って生ぬるかったっけー…と土方は滝のような汗をかきながら固まっていると
爆笑して壁に助けを求めている生徒が約一名。

「く、くるっ…くるしっ…僕笑い死にそ……っ!!」

そしてその隣で興味深そうに見ている風紀委員の腕章をつけた生徒。

「あれが噂に名高いメイド喫茶…なるほど…教わったものとはまたバリエーションが違うが…あれもアリなのか」
「あってたまるかぁ!!消去しろ斎藤!!今見たものもそこに転がっているお前の担任もすーべーてー消去しろ!!」

メイド喫茶という概念をとんでもないものに上書きしようとしている生真面目な生徒に土方は必死にデリートボタンを探す。

「……っつーか、井吹のアレは演技なのか?素なのか!?どっちだ。どっちにも捉えられて判断に苦しむ!」
「いやぁー。一回土方さんも踏まれてみたら解るって。――落ちるから」
「テメェが地獄に堕ちやがれ……!!」

腑抜けた表情が張りついている永倉の首をギリギリと絞める土方。

「でも一応さぁ?ツンデレで売ってんじゃないの?たまにはデレるんでしょ?あのメイドさん」
「ごくたまーーに、デレんのがまたたまんねぇんだよ!!」
「だからテメェ少し黙れっ」

こんなんがあの理事長の耳に入ったらどうしてくれる!と土方は必死。
するとやっと順番が回ってきたようで、男子生徒に促される。

「ご主人様たちのお帰りで…」
「―――何しに来た」

ズバン、と仁王立ちしている険悪オーラ垂れ流しのメイドが迎えてくれた。
「キュン」とするのは永倉で。
「あ?」と同じく険悪モードにスイッチが入るのが土方で
「照れてやがんなぁ全く―」と動じない原田で。
「茶をすすりに来た」と真面目に答えるのは斎藤で。
最後の一人――
スッと近寄る一人の男にピクと顔を上げる龍之介。

「―――何」

一応構える龍之介に対して、フッと笑う沖田。そして次の瞬間。
ペラリとスカートをめくった。

「…ぎ、」
「「「「「!!!!!」」」」」
「―――あ。かぼちゃパンツまで忠実。…井吹君ってば、あんな嫌がってた割りに何気にノリノリだね?」

ニヤリと笑うその沖田の顔――に反して、徐々に顔を真っ赤に染める龍之介は

「ぎ、」

ぎやあああああああっ

――本物のドエスにはやはり勝てなかった。爆

噂が噂を呼んで、メイド喫茶から何故かメイド&ドエス喫茶と進展した催しは
後の学園祭でも継がれる程の殿堂入りとなったのは言うまでもない。


END