いつものように朝食を食べに八木邸の広間に来ていた。
味噌汁のいい匂いにいつもなら食欲をそそられるのに今日はどうも箸が進まない。
「龍之介、顔赤いけど風邪引いたか?」
「えっ?……そう言われれば」
身体が熱い気もするし、頭も痛いような。
原田の言葉にそうかもなと口を開きかけて、それは平助の言葉にかき消される。
「本当に真っ赤じゃん。大丈夫か?」
平助の顔が近づいて、コツンと額同士がぶつかる。
そこから伝わるひんやりとした冷たさが心地よくて目を閉じて堪能しようとして、離れて行く。
目を開ければさっきまで目の前いた平助ではなく斎藤がいた。
「俺の石田散薬を呑め。その後は俺が看病しよう」
「何言ってんの、一君?そんなインチキ薬で治る訳ないでしょ?」
「何を言う、総司!!石田散薬は万能薬だ。呑めばすぐに治る」
不意に腕を引っ張られ身体が傾いで、ふわりと受け止められる。
見上げた先には悪戯を思いついた時のような笑みを浮かべる沖田。
「風邪を治す一番の方法って、人に移すことらしいよ」
沖田の言葉が理解出来ず、首を傾げる。クスクスと笑われる。
「笑うなよ!」
「ごめん、ごめん。井吹君が可愛いからついつい。風邪移されて上げるから機嫌治して?」
顎を捕らえられ、かち合う視線は珍しく真面目だった。だんだんと無くなる距離に心なしか鼓動が早くなる。
「迷信に決まってるだろうが。風邪ん時は温めるのが一番なんだよ」
沖田と触れ合う寸前で俺は土方さんに抱き寄せられたらしい。
すっぽりと土方さんの腕の中にいて、俺越しに土方さんと沖田が睨み合っている。
バチバチと火花が散っているのは俺の気のせいだと思いたい。
「だいたいお前の方が身体が弱いんだから風邪なんて移されてどうすんだ。それにお前に任せたら悪化するだろうが」
「土方さんに心配されるなんて思ってもみなかったな?」
「誰がお前の心配するか!お前が風邪引いたら井吹が気にするだろうが」
普段ならいつものことと気にならないだろうけど、二人の言い合いは痛む頭に響いて更に痛さがます。
助けを求めて視線を彷徨わせた時、バンっと障子が勢いよく開き騒がしさが一気に引いて全員の視線がそっちに向く。
仁王立ちで睨み付けるような芹沢さんが今日は少しほっとする。
「犬、何をしている。さっさと……」
「芹沢、さん?」
ずかずかと俺達のところまで歩いて来た芹沢さんは不自然な形で言葉を止めた。
更に険しくなった視線に何かしたかと不安になったが、そっと頬に触れた手の優しさに困惑する。
「熱があるな。今日はおとなしく寝ていろ」
離れていく手が寂しくて追うように手を伸ばす。
微かに口元を吊り上げ笑った芹沢さんに目を見開いた時、ふわりと身体が浮いていた。気が付けば芹沢さんに横抱きにされていて恥ずかしさに顔に熱が集まる。
「こやつは俺が看病する。貴様等は何もするな」
固まっている奴等にいつもの不遜な物言いで言い置いて背中を向けた。
ぴったりと芹沢さんの胸についた左耳に届く鼓動の音、身体に感じる温かさ、歩く度に感じる揺れの心地よさに目蓋が重くなる。
ついには目を開けていられず、芹沢さんが何か言っているのが耳に届いたのを最後に眠気に負けて目を閉じてそのまま意識は深いところに落ちてた。
end