あの事件以降、萩原さんと松田さん、そして彼等と同期であった俺の先輩の伊達航さん(彼も噂の5人組の1人だった)とは退庁時間が合えば飲みに行く仲になり、次の日がお互いに休みだったら萩原さんの家に泊まらせて頂く事が増えた。
萩原さんが回復した際に防護服の事について聞かれ、あれを作ったのは姉で、姉の許可が降りたので警視庁上層部に提供した事、その際に姉に対していくつか圧力を掛けられたのだが、そうなるだろう事が予想出来たので姉と相談の末、なんとか防護服の原案の無償提供で話がまとまった事を話した。
一度姉にお礼がしたいと言われ、姉に伝えたのだが名前の仲の良い人でも会いたくないと言われ、俺もこればっかりは姉の意見を尊重するしかないので萩原さんは未だに姉に会えずにいる。
勿論、姉が極度の対人恐怖症で外出もままならない事、家族意外にはここ数年会っていない事も伝えたので、萩原さんは別段嫌な顔もせず、なら仕方ないと無理に姉に会おうとはしないでくれた。
あの爆弾事件の犯人は未だに捕まっておらず、警視庁でも警戒は怠っていない。
*****
世間ではもう4年前になるあの爆弾事件が忘れ去られた頃、いつも通り帰宅後夕食を作り、ラボではなく実家で姉と夕飯を食べていたら姉は唐突に切り出した。
「この前の爆弾事件の犯人まだ捕まってないよね?」
「4年前の?」
「うん」
「残念ながらまだ未解決。俺らも捜査の手は緩めてないんだけど、毎日のように殺人事件があるから人員確保が難しくてね」
萩原さんはあの日から時間を見つけては爆弾犯の足取りを追っているが、相手も中々尻尾を出さないので飲み会と言う名の愚痴会が増え、酔い潰れた萩原さんと伊達さんを松田さんと一緒に萩原さん宅にぶん投げて自分達も泊まる、というのが増えた。
「その犯人なんだけどね、今年の11月7日に東都遊園地の観覧車に仕掛けるよ」
「ブッ!!」
さも、明日雨が降るよというような軽い口調で姉が言うので、飲んでいた味噌汁を吹き出してしまった。
「どう言う事だよ…?」
「その日の少し前にね、松田さん辺りが爆弾犯の足取りを掴んで次の設置場所見つけるの。それが観覧車の中。でも、それだけじゃなくてもう一つ人が大勢いるところに爆弾が仕掛けられてるって犯人からの声明があって、それが観覧車の爆弾の爆発3秒前にモニターに映し出されて、解体作業していた松田さんは大勢の人守る為に殉死しちゃうの」
「…まじか」
「下手したら萩原さんも一緒に、かな?」
「………まじか」
「多分名前も遊園地に配属されるだろうけど、どうする?11月7日を待たずに犯人を逮捕するか、ギリギリ粘って設置された爆弾解体して犯人を捕まえるか、何もしないか。前回の事があったから名前に無茶はして欲しくないのが本音」
「でもまた俺に言うって事は、姉さんはどうにかして欲しいって事だろ?」
「………でも、名前が一番大切」
「姉さんが助けてくれるなら、俺は大丈夫。松田さんも萩原さんも、もう俺の飲み友だから失くしたくない。…待たずに逮捕しよう。姉さん、協力してくれるよな?」
「うん、元々私のお願いだし」
心なしか安心した顔の姉に安堵したが、もう、色々ありすぎて飯の味がわからなかった。
*****
さて、時は過ぎ11月5日。松田さんが犯人の足取りを掴みかけていた。だが後一歩のところで情報が足りなくなる。
姉は既に犯人を見つけてあらゆるコンピューターを経由して監視をしていた。そして本日、姉の監視の結果東都遊園地に爆弾が仕掛けられるらしい。そしてもう一つ、杯戸中央病院には今日か明日には設置されるらしい。
俺はそれを松田さん、萩原さん、そして何かあった時の為の伊達さんに怪しまれないように伝えなくてはならない。
部署が違うので外回りに誘うのすら一苦労だ。一番怪しまれない時間が昼休憩という。俺は休憩も出来ないのか。
いつもの如く伊達さんに引き摺られ警備部に顔を出せば、あからさまに苛々している二人が財布片手に待っていた。
「お前らいつにも増して顔が凶悪だな!」
「うるせーよ!」
「顔が良いのに勿体無い」
「苗字まで言うか!」
軽口をかわしながら警視庁を出たところで携帯に着信が入る。どこを経由して見ているのかわからないが、打ち合わせ通り姉からの着信だ。
手順はこうだ。
まず警視庁を出たら姉からの電話を受け、犯人が爆弾を持って移動している所にランチを装って出掛ける。姉からの電話はオススメの定食屋を教えて貰っている程で話を進め、俺が犯人と接触し缶コーヒーを犯人の鞄にぶちまけ中身を心配する振りをして現物確認、現行犯逮捕という流れたなのだ。だから態々ランチに行くのに警視庁で缶コーヒーを買って、ポケットに突っ込んだままにしている。
「姉からだ」
そう言ってイヤホンで着信を取れば、作戦スタートだ。
*****
「おい苗字、まだか〜?」
「姉さんが言うにはこの辺なんですけど…、姉さん、本当に上手い定食屋なんてあんの?」
『そこを右』
「ここ右」
『左にいる黒のキャップとグレーの半袖、ジーパン履いてて黒のボストンバック持ってる男が犯人。ぶつかって!』
「ここら辺みたいなんですけど…っと!」
ドンッ!とぶつかりボストンバックにコーヒーをぶちまける。
「あああ!すみません!バックが!」
「だから飲みながら歩くなって言ったんだぞ!?」
「伊達さん!タオル!」
「ねーよ、そんなもの!」
「松田さん!」
「…ハンカチなら貸してやる」
慌てた風を装って犯人(仮)の鞄に手を掛けコーヒーを拭く。
気にしないで、大丈夫ですから、などと言っている犯人(仮)には耳を貸さず、染みになるからと無理矢理鞄を奪い、中にもコーヒーがと言ってチャックに手を掛けたところ、犯人(仮)が叫んだ。
「やめろ!勝手に開けるな!」
「中にもコーヒー入っちゃってたら大変ですから!弁償します!」
「おい苗字、些か強引じゃねーか?」
「伊達さん、こういうのは最初が肝心なんですよ」
そう言い逃げ出そうにも男4人に囲まれて逃げ出せず、俺から鞄を毟り取ろうにも案外馬鹿力の俺に敵うはずもなく。
チャックを開ければやはり姉の言った通り。
「伊達さん!松田さん!萩原さん!確保!!」
「くそっ!!」
悪態を吐いて無理矢理逃げ出そうとした犯人を伊達さんが背負い投げをし、松田さんが確保する。萩原さんは俺から鞄を受け取り、タイマーが動いていないのと爆発する恐れがないか確認をし、俺は警視庁に爆弾犯確保の連絡をした。
姉との電話は切れていた。
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事情聴取の結果、確保した犯人は萩原さんと松田さんが追っていた爆弾犯で間違いなかった。
自宅から押収した物の中に今回仕掛けるはずだったもう一つの爆弾もあり、萩原さんの時の物と作りが一致したのだ。
萩原さんも松田さんも、あまり納得のいく逮捕劇ではなかったようで不満たらたらな顔をしていたが、俺としてはこれで松田さんも萩原さんも爆死する事がなくなったのだと安堵しかない。
上司には今回 た ま た ま 犯人を確保したからといって調子に乗らないようクギを刺されたが、爆弾設置前に逮捕出来たのだから少しくらい褒めてくれても良いんじゃないだろうか。嫌味な上司だ。目暮警部は褒めてくれたのに。
かくして、姉と俺の共同戦線で11月7日の爆弾事件を未然に防ぎ、萩原さんと松田さんの無事は確保されたのだった。