だって触りたくなっちゃう



喜助さんの大きな背中。

ゆっくり近づくと、大好きな優しい匂いがする。

台所は静かで、ひんやりと冷たい。


「名前サン」
「あ、やっぱりバレた?」

喜助はへへへと笑う名前を、ちらっと背中越しに見てふっと笑った。

「アタシを誰だと思ってるんスか」

そのままお茶の準備を続ける喜助をみて、名前は唇を尖らせる。

「なーによ。つまんない」
「あら、気づかないフリすればよかったっスか?」
「それはそれで、なんかムカつく!」

あはははと笑う喜助は、何がそんなに面白いのか分からないくらい楽しそう。
その顔を見ていると、触りたくなってしまうのが名前。

「ひゃぅ!…名前サン?!」
「なんでも分かるんじゃなかったの?」

にやっと笑う名前の手は喜助のお尻を撫でている。

「んーいいお尻」
「…こういうの、セクハラっていうんじゃないんスか?」
「“ひゃぅ!”だって!かーわいいー」
「もー。お茶準備できましたよ」
「わーい」

お茶を乗せたお盆を持って、喜助が移動すると名前も一緒に移動する。

「名前サン、たまにおっさんみたいなことしますよね」
「だぁって」

触りたくなっちゃうんだもん。

名前は、ストンと卓袱台の前に腰を下ろし、喜助が淹れてくれたお茶をゆっくりすすった。

「いや、触ってもらうのは、全然やぶさかでないっスけどね」
「でしょー?」
「問題なのは」

喜助は名前との距離を一気に縮めて、大きな手で名前の頬を包んだ。

「きゅ…」
「きゅ?」
「急過ぎる…」
「えーだって、」

煽ったのは名前サンでしょう?
喜助の端正な顔が、怪しく笑う。

名前ははくはくと口を開けたり閉じたりするだけで、声も出せない。

恥ずかしさでじんわりと潤む瞳。
耳まで染まった顔。
震える唇。

「…名前サン、かーわいいー」

更に近づいて耳元で囁くと、名前の瞼はきゅっと閉じてしまう。

ホント、可愛いっスねェ…。

首筋にキスを落とせば、名前の体はひくりと跳ねる。

「だ…めよぉ」
「なにが?」
「なにがって」
「なにがダメなのかちゃんと言ってくれなきゃ、わからないっスよぉ」

名前は自分の顔を両手で覆って、一生懸命言葉を選んでいる。
どう言えば一番伝わるのか、どの言葉なら一番恥ずかしくないのか。

その葛藤全て伝わってくることが嬉しくて、喜助は顔をほころばせた。


「たっだいまぁ!」
「ただいま戻りました」
お遣いに出ていた、じん太と雨の声が聞こえた。

「あ、おかえりぃ、いたぁっ!」
喜助がそのままの体制で、その声に答える。
瞬間、名前の手が喜助の顔を押しのけ、喜助がひっくり返った。


「なぁにやってんだ、2人とも」
じん太が呆れ気味に2人を眺める。

「べ、べつに、なにも!」
名前は立ち上がって服の裾を直している。
その横で、ヘラヘラと頭をかく喜助の姿。



「うらはらさんのーひげがすきー」
名前のご機嫌な歌声とともに、喜助の無精髭がじょりじょりと撫でられる。
「名前サーン。髪、乾かしてきたらどうっスか?」
「ひーげーひーげー」
「無視…」

風呂上がりで、ご機嫌な名前は喜助の部屋でくつろいでいた。
喜助がかいたあぐらに座って、その髭の感触を楽しんでいる。

懲りない人っスね…。

喜助は楽しそうな名前の声を聞きながら、そっとため息をついた。

でも、ま、今からは邪魔はまず入らないっスからね。
ゆっくり楽しみますか。

喜助の口角が自然と上がると、名前の歌が止む。

「…髪、乾かしてこよーっと」
「そりゃないっスよ、名前サン」

名前の小さい体が、喜助の体にすっぽりと覆われる。

「ずっと、煽られっぱなしなんスから」

さぁて、続き。しましょうか?






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