Candy



「喜助さんはホントに欲がないから」
「なんスか、急に?」


急な呟きは彼女のクセ。
それにいつもドキッとするアタシも、いつものことで。


冬の陽射しは暖かい日溜まりを作り、背中にぴったりと彼女の体温。
貴方は知らないんだ、アタシの心に渦巻くモノを。


“欲が無い”
そんなのは嘘だ。


願わくば、貴方がどこへも行かないように閉じ込めて。
昼も夜も貴方だけを見ていたい。
貴方の体も心も、全てを手に入れて、アタシの体も心も、全て貴方に捧げてしまいたい。
それは叶わぬことだ。


それに。
新しく手に入れることは、手の内の何かを少なからず捨てることになるから。

今手にあるモノをきちんと守っていくこと。
それが大事だと知っているだけ。


「あ、もしかして、褒め言葉っスか?」
「はぁー。喜助さんって全然優しくない。
挑発にも乗ってくれないし。あ、褒め言葉じゃないよ」


失礼だなぁ!とか言って、欲しいもの言ってくれるかと思った。

つまらなそうにボヤいて、アタシの背中にコツンと頭をぶつけてくる彼女は、だけどきっと少し笑ってる。
そういうことを、見なくても手に取るように分かることが、何より大切。


「アタシはもう沢山もらってるんスよ。
名前サンがアタシに心を傾けてくれるだけで、満足ですから」


白い息を吐けば少し幸せが増す。
新たに欲しがるよりも、今手にあるモノを慈しむ。


「…気持ちだけじゃ、さ。
やっぱり何だか寂しいと思うわけよ。」

形あるものに想いを乗せたいとかさ、思うわけよ。

ポツリと呟く彼女の言葉にも一理あると思う。


「まぁ…でも…。
アタシは幸せなんで、いいんじゃないっスかねぇ」


うんと伸びをすれば、どこまでも高い空に手が届きそうだ。


「喜助さん」


頭上から名前を呼ばれて伸びをしたまま見上げれば、頭の上から甘いキス。


「ん…いちご味」
「うん。飴、食べてたから。」


微笑む彼女から、甘いキャンディーの匂いが漂う。
吸い寄せられるように首後ろを掴んで、もう一度深く口付けを贈る。
舌を差し込み口内を満たす甘さを堪能し、うっとりと目を閉じた。
ようやっと甘さの根源を、舌で捕まえる。


「ごちそうさまっス」

欲しいもの、もらいました。
と、奪ったキャンディーを舌で転がして見せると、真っ赤な顔で名前がヘタヘタと隣に座り込んだ。


「…もう、欲しいなら、言ってくれたらいいのに」

ほんのり染まる頬にそっと触れれば、風にのってふわりと香る甘い匂い。
嗚呼全てが愛しい。
鼻と鼻をくっつけて笑いあえば世界が回る。
この時間がアタシにとって最高の贈り物。



欲しいモノ、
ではなくて
失いたくないモノ。






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