狡い男と不眠症のあたし



夜明けまで数分前。
また、朝が来る。
あたしは相も変わらず、うっすらと靄のかかった頭を振ってベッドを脱け出す。


「…ちょっと、離してよ」
「あぁ、すいません。つい…」


ベッドの中から伸ばされた腕の主は、薄い茶色がかった猫っ毛。
忌々しいのはそのヘラリ顔と直ぐに弛める手の力。
更に悪いことには、起き抜けのこの人の色香は抜群だってことだ。

どうして、あたしの総てを奪ってくれないの。
貴方はどうして、そんなにあたしを捕らえるのに。
本能のままに、あたしをぎゅうぎゅうに閉じ込めてよ。

言葉とは矛盾した、そんな想いが胸を支配する。


「…離すんなら、最初から捕まえなきゃいいのに」


吐き捨てたつもりが、何故か祈りのように聞こえてしまって居心地が悪くなった。
ベッドから外に出ればまるで別の世界に落っこちたみたいに、身体が軽くなる。
窓の外は雪が降りしきっていた。
素肌に空気が冷たい。


「風邪、ひきますよ?」


後ろから掛けられる上着に彼の薫りを感じた。


「喜助さん…。あたし貴方が好きよ。あたしだけのものにしたいくらい」


貴方をあたしだけの物に。


「過激っスねぇ…。
だけど、光栄だ。貴方に支配されるなら」


回り込んで、暖かい唇があたしの首筋を這う。


可哀想な人。
あたしを奪いたいのは、貴方のほうでしょう。
総てを奪うことを躊躇っているけれど。


馬鹿な人。
あたしがそれで、どんなに苦しんでるかも知らないんでしょう?
傷つけまいと、切に願っているくせに。
もうすでに、あたしは貴方のものなのに。
心は千切れそうよ、いつも。


身体中に貴方のキスを感じて、貴方の心の震えを知る。


「何でアタシなんか選んじゃったんスか。
こんな、約束の一つもしてあげれない男を」

「アタシなんか何時でも棄てて下さい」

「貴方はアタシと堕ちちゃいけない」


切々に紡がれていく叫び。
彼の総てが泣いている。


「ねぇ、喜助さん。」


背中にキスを感じてひくりと震えるのは本能。

「…なんスか?」
「プレゼント欲しくない?」

肩を甘咬みされて甘い痛みに酔う。

「いいんスか?」


頭に響く特有の水音。
官能的な目眩。


「あたしの総てを貴方にあげる。
自由にしていいよ。
縛って、動けなくなるくらいにきつく。
そして閉じ込めて。
不安なんでしょう?」

「…敵わないなぁ、ホント。」

目を閉じて貴方に溺れる。


貴方の存在を感じるのに眠る暇もいらない。


夜明けまで数秒。


貴方の総てがあたしの総てに。






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