have a break



「また惨敗っスか?」

おでこをカウンターにつけたまま固まっている、小さな頭の上に意地の悪い言葉を落とす。

「…いつものことだもん」

ポツリと紡がれた言葉に、心臓がぎゅっと音をたてた。

どうして、こんなにこの子が傷つかないといけないんだろう。
アタシなら…、なんて思ってしまうのは、自惚れだろう。
何ができるか、が問題ではない。
誰が、というところが一番の問題。
彼女が求めた人でなければ、意味がない。

「ほらほら、名前サン、顔あげて」

褐色の液体がカップに落ちきり、香ばしい香りが漂った。

緩慢な動きで顔をあげた彼女の手が、気怠げに動く。
初めて会った頃より伸びた髪を耳にかけて、そのまま頬杖をついて視線をあげた。
遠くを見つめるその横顔を眺めて、アタシは心の中でため息をつく。

綺麗になったなぁ。

仕草のひとつひとつが、残像になって脳裏に残っていく。
でも彼女が変わってきたその過程に、アタシの影はない。
それがひどく寂しくて。


初めて名前サンに会った日。
ずぶ濡れで、ひどく落ち込んで、この世の終わりのような顔で歩いていた。
その頼りなげな姿を見ていられなくて、声をかけたのだ。
まだ十分にあどけなさが残る顔をくしゃくしゃにして泣く彼女を、慰めもせずアタシはただ見ていた。


最初はただの気まぐれ。
今はこうして、彼女の残像を追っている。

「さぁ、どうぞ」

丁寧に淹れたコーヒーを差し出しついでに、カウンター席の横に座る。
名前さんはというと、はぁとため息をつきながらカップを手にとった。


「あたし、3月からもう大学生だよ?
それなのに、いつまでたっても子ども扱い」
「その人にはその人の考えがあるんスよ、きっと」

アタシが苦笑すれば、唇をツンと尖らせてみせる。

「そんなの、知らない」
「可哀想だなぁ」

まだ見ぬその男に、思ってもいない言葉を紡ぐ。
狡猾で、嫌な男だ。
この子の前で良き理解者ぶりたいアタシも。
いつまで経っても突き放しきらないその男も。


「どうしたの?」

名前サンが意識を飛ばしていたアタシの顔を覗き込む。

「…いえ」
「ふぅん…それよりさ」

驚くアタシをよそに、名前サンの目が嬉しそうに見開かれた。

「今度、連れて来ようかなって」

ずきりと胸が軋む。
誰を?
そんなこと聞かなくても分かる。


「どうぞ、お好きに」

この子の目に、アタシの動揺はうつらない。


「名前サン」
「ん?」

頬杖をついて、その横顔を眺める。
アタシがその名を呼んで、振り向いてくれる。
ゆっくりとこちらに動かす視線や、髪が揺れる瞬間、全てを焼き付ける。


「綺麗になったね」
「なっ、なに」

顔を真っ赤にしてアワアワと慌てる名前サンを見て、ふと自然に笑みが溢れた。

「だから、自信もって大丈夫っスよ。
きっと振り向いてくれる」
「…ありがと」


ねぇ名前サン。
今日くらい、アタシと一緒に休みましょう。
辛い恋にも休みくらい必要。
コーヒーならいつでも、アタシが淹れるから。






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