リセット



「喜助さん、これ、ここでいい?」
「ハイ。ありがとうございます」

すいませんね。

喜助は申し訳なさそうに笑う。

いよいよ今年も残すところ、あと1日。
浦原商店も忙しい年の瀬を迎えているところだが、店はとりあえず一段落ついた。
実は店よりも、店主の部屋が問題なのだった。

例に漏れず荒れ果てた室内。
一年間散らかし続けた残骸のような部屋にやっと手をつけられたのが今日。
結局、年末ギリギリまで大掃除になるのだ。

「なんかさぁ、結局、毎年こうだよね」
「アタシも今、おんなじこと考えてました」

アハハと声をあげて笑う喜助を、名前は呆れ顔で見つめる。

「アハハじゃないよ」
「笑ってないとやってられないでショ」

このやりとり、実は毎年やっている。

もう何度目だろうか。

目の前の本を選別しながら喜助は思いを馳せる。

まだ初々しかった名前が、尸魂界から現世に派遣されて早数年。
恋仲になったのは、そう昔の話ではないが随分長いこと一緒にいる気がする。
だからこそ分かること。
ため息一つ、動作一つで彼女の心の内がなんとなく読み取れる。

今日はアタシの誕生日。
どこかに出かけて、少しの非日常を味わいたい。
なのに、肝心の相手がそんな気はまるでないように見える。
恐らくそんなところだ。

つまんないなぁ。

そんな彼女のボヤきが聞こえてきそうで、思わず口元が緩む。

「なに、一人でニヤニヤして」

形の良い眉をキュッと寄せて、名前が怪訝そうにこちらをみている。

「いや、可愛いなぁ名前サン、と思って」
「なにそれ」

ふいっと顔を背けて作業を続けるその横顔は、どことなく綻んでいるように見える。
それをみて、喜助は肩を揺らして笑った。


名前サンには申し訳ないけれど。
アタシにとっては、この繰り返す日常が何よりも大切で。
誕生日だからこそ、何気ない幸せを噛み締めたいと思う我儘を許してほしい。

どんなに月日が経っても、日が落ちて月が昇るたび、アタシの気持ちはリセットされる。
毎年同じやりとりでも、アタシには新鮮な喜び。
キミの仕草や言葉に、いつもいつも恋をする。





「いやぁー!綺麗になったっスね!」

片付いた片付いた。

ホクホクと部屋の中を見回す喜助をみて、名前もまたすっきりとした気持ちで部屋を見回す。

毎年のこの時間が、名前が結構好きなことは内緒。

本当は、今日は彼の誕生日。
お洒落してお出かけして、のんびり二人で過ごしたい。

つまらない。

そう思わなくもない。

でも、片付けをしながら、どこか終始嬉しそうな喜助を見ていると、名前も嬉しくなってしまうのだ。


「全く、毎年世話のやけること」
「いいっスね、今のセリフ。こう、ぐっとくるものがありますね」
「ばか」

軽口を軽く受け流して厚い胸を叩くと、大きな掌が名前の拳を包んだ。

「  」

顔に影が落ちて、それは名前にしか届かない囁き。
喜助の香りがふわりと漂って、甘く余韻を残す。

「…ほんと…、ばか」
「心外っスねぇ」

めちゃくちゃ嬉しそうな顔してるじゃないっスか。

余裕のある笑みを向けてくる、その整った顔が悔しい。
でも、結局の所、そんな彼だから、恋に落ちるのだ。
そう毎回、こうして、私は落とされる。



さぁ、今日は彼の誕生日。
内緒で仲間に呼びかけていた、お祝いの準備が整っていることだろう。
彼の大切な人々と一緒に、彼を祝おう。
どんな顔をするだろう。
こうして、貴方のことを考えることができる幸せ。






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