Rainy Day



急な夕立が、乾いた地面を次々に黒く染めていく。
昼間に熱せられた空気が、蒸気となって立ち上る。


「うわぁ―…。降ってきよった…」


げんなりして空を見上げれば、今朝の晴天からは考えられないような大粒の雨。


教室から見える空が昼頃から崩れ始めてはいたので、予感はあった。
が、やはり気分が落ちる。雨は嫌いだ。



「どないしよ―――。」


止んでくれないかと空を仰いでみてもきっと無駄だろう。
昇降口なんかで1人でぼーっとしていても空しいだけでどうにもならない。


分かっているのだが、まだ雨に打たれる勇気がでないでいる。


「あ゛ー…うだうだやっとってもしゃぁないかぁ…。
帰ろ。」


屋根の下から出る決意を固めて、ぐっと足に力を入れたときだった。


「平子君?」


上げかけた足をそのままに、聴きちがえることの決してないその声の主を確かめる。
わざと大儀そうに、何でもないように。


「…何や、名前か。」
「何やって…すいません、現れたのが私で。」
「何で謝んねん。アホか。」

けっと口を尖らせる。


違う、違うんだ。
本当はこんなつっけんどんな言葉じゃなくて…。
その声を聴いた瞬間に胸に溢れた期待はもっと―。


もう一度空を見上げて溜め息を吐く。


「平子君」

「あ?」

いつの間にか隣に来ていた彼女をチラッと見れば、何だかとても優しい横顔で。


あぁ、キレイやなぁ…。


柄にもなく見惚れた。



彼女はふと思い出したように、屋根から手だけ出して雨粒を掬う。

「雨、嫌い?」
「何や急に」
「んー、何かさっきから空見てすごく…うーん…途方に暮れてたから?」
「傘、持ってきてへんねん。濡れたなくてなァ」

そっかぁ。
と名前も一緒に空を見上げる。

「降る前に、HR終わってすぐ帰れば降られなかったのにね」

なにかしてたの?
と事も無げに名前が聞いてくる。


「……………」
「えーっと…。平子君?」


急に黙り込んだ俺を心配そうに覗き込む。

答えにつまった俺はどうしようもなく格好悪い。
伝えたい言葉は溢れるようにあるのに。

本当は、放課後に図書室に寄ったお前に会えるかもってうだうだしとったとか。
こういう展開密かに期待しとったとか―――。


「まぁ俺にも色々あんねん!
告白されるとか、ラブレター渡されるとか…」

なんやねん、この苦しい誤魔化し…。

自分で作ってしまった間に堪えきれず、口をついて出る軽口に自分で自分が情けなくなる。


名前は可笑しそうに「そっか、モテる男も大変だね」と言って笑った。


その笑顔が、声が、どれ程俺にとって切ないかなんて君は知らない。


せめてもう少しこのままで。
この偶然の瞬間を愛しく想う日がいつか来るから。


「雨、止まないねぇ」


彼女の声が雨音に交じる。


誰もいない校庭、二人だけの靴箱、雨の匂い――。



「もうちょい、雨宿りしていこか」
「うん」



少し、くすぐったそうに笑う彼女を見て、俺はまた言葉にならない想いを増やす。







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