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「早いなぁ。もう年末やで」
「…ほんとだね…」


穏やかな土曜日の午後。
部屋はストーブの火で暖まり、その上でヤカンがカタカタと音をたてている。
大きなカフェオレボウルは二人お揃い。
だけど別に恋人同士とかそういうんじゃなくて。

ゆるりゆるりと時が流れていく。
ぬるま湯みたいな穏やかな時間。
よく分からないあたし達の関係。



「なぁ、名前」
「ん?」


顔を上げたら金が揺れた。



「今年のクリスマス、誰かと約束とか、あんのか?」
「さぁ…。わかんない。今は」


そっちは?と何でもないように話を振りながら考えた。


ねぇ、どういうつもりで聞いてるの?
いつも掴みきれない真子の言葉の裏。


「俺は…俺も今はまだ」


わからへん。

頬杖をついて、あたしを見る真子。
読めない笑顔の出来上がり。


「素直に俺と過ごしとったらええのに」


ニィと真子の独特な笑顔が意地悪。

真子は知ってるのに。
判ってるはずなのに。
わざとらしく膿んだ傷を撫でていく。
忘れたいことほど心に強くしがみついてるものだ。


「ごめん。約束は、できない」


あたしの呟くように言ったはずの言葉が、やけに響く。



「まだか」
「え?」
「…まだ待つんか」
「…そうだなぁ…。わかんないや」

ハハっと乾いた声で笑ってどんよりと曇った窓の外をみた。



「待って、待って、待って。結局来なかったアイツをまだ待って…。
痛いよねー」


自分をズタズタにするような言葉を紡いでは、また自己を保っている。
その痛みでさえ、彼を忘れないための記憶になる気がして。
そんなあたしを、真子もじっと待っている。


辛い辛い恋のお話。



みぞれ雪が視界を濡らして、凍えた手に吹き掛ける白い息さえ出せなくなってきたとき、差し伸べられた手はあたしと同じ温度だった。



名前。帰るで。



何も訊かず。
たったそれだけの言葉であたしをあの場から引き離してくれた。


あの時、貴方はどんな気持ちでいたのかな。
どんな気持ちで、私の腕をとったんだろう。





「もうええやろ。
あないな奴に、なんでお前がそないボロボロにされなアカンねん」



はっきりと、あたしの変わりに出してくれる言葉に心が震える。



「真子…。ありがと」
「…なんの礼やねん…」



不器用で、ぎこちなくて、あったかい優しさ。
少しずつ少しずつ進めているのは貴方のお陰。


今はまだもう少し目を瞑っていて。
あとほんの少しだから。









想いが交差して、
境界線が揺れる。






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