サボテンレコード



あぁ綺麗。
金色の髪。
滑らかなシルエット。

手を伸ばして、後もう少し…。


「サボりかいな」
「ひゃ」

あと数センチで触れられる距離が遠い。
手にじっとり汗が滲む。

「バレバレやで」

イヤホンを外しつつ、気怠げに振り向いた彼の視線がじと、と私に突き刺さる。
思わず触ろうとしていたこと、バレてたと思うと体温が上がる。

「だって…」

綺麗だったんだもん。

モゴと口の中で呟いた言葉が、彼に聞こえたかどうかは分からない。


「座り」

ポンポンと自分の横の床を叩いて誘ってくれる。
それだけで嬉しくて、心が跳ねた。


平子真子。
最近転校してきた彼。
サラサラツヤツヤのおかっぱ金髪ヘアーに、目を奪われなかった子はいなかったはず。
スラッと伸びた背と、手足が綺麗で。
彼の動きひとつひとつに心持っていかれた。


「屋上でサボりとはなぁ。名前ちゃん悪い子やのぉ」
「平子くんこそ」
「俺はええねん」

最初から悪やから。

ニィと口角をあげるその色気のある笑顔は、高校生のそれにはとても見えない。


2限をサボって逃げ込んだ屋上は、秋風が涼しく空が高い。
気持ちよくて、平子くんの隣で寝転がった。
背中にコンクリートの熱がちょうど心地よく暖かい。

平子くんと初めて話したのもこの屋上だった。
それからこうして、たびたび屋上で会うようになった。
否、正確には私が会いに行ってるというのが正しい。
教室に彼の姿がない時は、ここにいるとわかるのだ。


隣でぼーっと音楽を聴いている平子くんの横顔を盗み見る。

綺麗な顔。

キラキラとそよぐ風に、平子くんの髪が揺れる。

通った鼻筋。
男の子にしては華奢な輪郭。
眠たげに垂れた目。
立てた膝にだらりと乗せた腕のしなやかさ。
すらりと伸びた指。

「完璧…」

思わずため息が漏れる。


「…そない見つめられたら、穴開くわ」

平子くんの薄い唇が動いた。
長くて綺麗な指が、イヤホンを外す。

「え、見つめてた?」
「おぉ。そらもう、あつーい眼差しで」
「だって」
「あんまし俺がかっこよくて?」

ツ…と落とされた視線がぶつかる。
またもあの笑み。

「…違うもん。髪に触りたいなぁって、ただそう思ってただけ」

かっこいいとかじゃない。
そうじゃなくて、私は。
ただただ、完成されたその形を見ていたいだけ。
恋とか、そういうんじゃないんだ。


なんちゅー顔してんねん。


隣で視線を外す名前の横顔を眺める。
ほんのりと染まっていく頬が、きゅっと寄った形の良い眉が、想いを物語る。






しゃーから、バレバレやねんて。


表情や仕草から、気持ちを察せないほど俺も純粋ではない。
しかし露骨に出している当の本人は、その想いを自分では認めるつもりがないらしい。



髪綺麗だねぇ!触っていい?!
ええでぇ。その代り俺も名前ちゃんの色んなとこ、触ったろ。
ええ?!でも…いや…あの…!
ぷっ…ウソウソ。


唐突に切り出された要望を、俺は緩く躱した。
そこからはじまった、屋上でただ2人でのんびり過ごすだけのゆるーい関係。


最初は、可愛い子ぉが俺に興味もってくれてラッキー、くらいの気持ちだった。
暇つぶし程度にしか捉えていなかったその交流を、いつの間にか心待ちにするようになっていった。


「髪、触ってみるか?」
「えっ、いいの?!」

隣でガバっと起き上がる名前に口元が緩む。

ホレ
と手招きすれば、嬉しそうに寄ってくる。

華奢な白い手がそっと伸びてきて、柔らかな香りが鼻を掠めた。

「うわぁ…サラサラ」

頬に彼女の熱を感じて、くすぐったい。

「そうか?」
「へ、」

華奢な手首を掴みぐっと引き寄せれば、受け止めるに十分な重みが降ってきた。

「なっなっ…!」
「あ、スマン。つい」

腕の中で固まっている名前の髪を掬うと、さらりと滑り落ちていった。

「名前ちゃんの髪も、綺麗やで」
「…平子くん、」

聞こえてたんだ…。

ポツリと呟く名前に、ふっと笑みが溢れる。

そらもう、ばっちり。
聞き逃すはずないやんけ。

「ええ匂いすんなぁ」
「あの…そろそろ離し、て…」
「ええやん、このままで」
「でも…でも!だって、えっと」
「でた。でもでもだって。それ口癖やんな」
「っつー…!意地悪」


このままどっか遠くに行けたら。
そんなことを思う。
それは叶わないけれど。


「今くらい、ええやろ」


こんな秋晴れの、平和な一日くらいあっても。
彼女の体温が上がっていく。






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