夢で逢えたら
あァ、もういっそのこと。
貴方の体に流れる赤い命さえ、俺の物になれば。
その白い皮膚に俺が触れたら、貴方は何を想う。
あァ、どうしようもない。
欲しくて、
仕方がない。
色素の薄い瞼が、ゆっくりと開いていく。
視線と視線が絡み合い、俺は目が離せなくなる。
そんな状況でも、頬すら染めてはもらえない。
「あの…隊長…」
「なんでィ」
「いや、何そのふてぶてしさ。何でここにいるんですか。」
「男が女の閨に忍ぶのに、理由がいんのかィ?」
「いや、おかしいでしょうよ。だって私達、理由がいらない仲じゃないもの。」
伸ばされた白く細い腕がゆっくりと俺の胸を押し返して、結局逆らえないその非力さに負けてしまう。
眠っている間に見た素顔の細部を、あんなにも奪いたいと思ったのに。
キスすらできやしねェ。
「隣の部屋は副長なんですよ。こんなとこ見られたら殺されます」
彼女が呆れた目で俺を見て、枕元の羽織を肩にかけつつ起き上がる。
「大丈夫、大丈夫。野郎今、女と乳くり合ってる最中だから」
「マジですか。
…いやいや信じませんよ。
だって副長が隊長の言うこと9.5割は嘘だって言ってましたもん」
チッ、いらねェ知恵付けしやがって。
胸中で忌々しいV字前髪を思い出す。
「大体、」
ふっと溢したその言葉の先を追いかけるように彼女を見たら、どこまでも優しい笑みが悔しい。
「副長は、そんな人じゃないです」
確信の籠った口調が、想いを乗せた視線が、俺に思い知らせる。
全部アイツが持って行っちまう。
「…アンタが起きるからいけねぇんだ。」
「何がですか。
ていうか、何だ、その物凄い責任転嫁。」
「起きなけりゃ、」
知らねぇ間に、俺が全てを奪ってやったのに。
ボソと零した言葉は、虚しく宙に浮いて消えていく。
そしたらきっとアンタも、不毛な恋なんて屁の役にも立たねぇもん忘れて、俺を見ざるをえなくなるんだ。
俺を見てくれ。
祈るような気持ちで、俯けば
「隊長…。沖田さん」
頬にそっと白い繊細な手が寄り添う。
この女そのものみてぇな手が、己の信念の為に刀握り締めてんだとか、そんな下らねぇ事をこんな時に思う。
「全てを奪うなんて、そんな出来もしないこと、言っちゃ駄目ですよ」
少し悲しい声がした。
顔をあげたら困ったような、悲しいような表情で俺を見る視線とぶつかる。
「出来るか出来ねぇかはわかんねぇだろィ?」
あァ、馬鹿だ俺は。
「出来ませんよ、隊長は。隊長は…―悲しいくらいに、優しい人だから」
「…はっ。」
情けなくて自分を嘲笑う。
惚れた女に、逆に慰められてちゃ、世話ァねェな。
どうしても届かない。
無理に奪ってしまえと、何度思ったか。
でも、分かっちゃいても、目が耳が心が、追いかけてしまう。
ぐるぐると俺達は―。
「チッ…―。ヤル気削がれちまったィ」
「やっと帰りますか」
「今日はな。
でも、また昼間みてぇな辛気臭ぇ顔してたら、次は熟睡中に必殺エルボー決めてやるぜィ」
「隊ちょ…!!…見てたんですか…」
黒目がちの瞳が、大きく見開かれる。
「あんな顔してたら嫌でも目に入るんでィ。じゃ、また明日。寝坊すんじゃねぇぞー」
「隊長に言われたくないんですけど。」
「あ、そうだ」
言い忘れた振りで、伝えたかった言葉を添える。
「土方さんと話してた娘、アレ、万事屋の旦那の女だから」
「え」
ったく…。
「なんてぇ顔しやがるんでィ」
人の恋路なんかクソ食らえだ。
春の月はどこまでも白々しく下界を照らして、思いついた悪態も嘘っぱちのように感じた。
「さーて、俺も寝るかねィ」
やっぱ、寝てる間にキスぐらいしときゃよかった。
少しでも触れたら、夢の中でくらい側にいられたかもしれないのに。
fin