五条悟と彼を知りたい後輩


「五条先輩!好きな色は何ですか?」

「五条先輩!先輩の誕生日はいつですか?」

「五条先輩!甘いものが好きってホントですか?」

五条先輩!五条先輩!五条先輩!

「だぁぁああ!うるっせェーー!」

名前と質問の繰り返しに、危うく五条先輩がゲシュタルト崩壊するところだった。
最近の五条の悩みの種、それはひとつ下の後輩達、その中の紅一点である苗字名前である。
この名前、見たまま五条が大好きで、話すことと言えばほぼ一問一答。ここまでだとただ鬱陶しいだけの名前であるが、意外なことに五条は恋愛云々を抜きにすれば彼女を好ましく感じていた。
というのも、名前は一般家庭の出であり、スカウトされての入学であるため、呪術界のどろどろとしたしがらみとは全くの無縁。年相応に、はしゃぎ落ち込むいい意味で普通の女子。呪術界の汚泥を見て育ってきた五条の周りにはいなかったタイプだ。
だが可愛いと感じたのは最初のうちだけで、それが続くとなると話は別だ。毎日毎日、五条先輩、五条先輩、五条先輩──発狂するのも時間の問題、むしろよく耐えたと褒め称えられて然るべき。
発狂して机に突っ伏した五条に、夏油と家入はついに爆発したかと、ケラケラ笑った。

「笑ってんじゃねぇよ。お前らもやられてみろよ…」
「後輩に想いを寄せられるなんて青春じゃん、五条先輩」
「全く羨ましい限りだよ、五条先輩」
「だから!やめろって!」

完全に面白がっている級友二人に両の耳を塞いで「あ"ぁー!」と叫んだ。夏油が思い出したように人差し指を立てる。

「けど、彼女不思議だよね」
「あん?」
「いや、私たちと話すときと随分雰囲気違うから」
「は?お前何言ってんの?」

夏の暑さで頭がおかしくなったのかとでも言いたげな五条の怪訝な顔に、夏油は心外だと続ける。
夏油曰く、名前は普段もっと賢い言動をするのだとか。"賢い"という言い方だと誤解を招くかもしれないが、事実である。名前は術師としての等級こそ高くはないが、実力以上に状況判断と分析が上手いというのが夏油が彼女に抱く感想だ。そして校内で普通に話していても、その知性は言葉の端々から感じ取れる。
名前が子犬のような振る舞いを取るのは五条にだけだ。夏油はそこに理由がある気がしてならない。

「……深読みしすぎだろ」

否定しつつも、明らかに気にしている五条に夏油は吹き出した。


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「苗字、なぜ五条さんにだけあんな態度なんだ」
「ん〜?好きだからだよ」

校内の自販機が並ぶ一角でたむろする二人が自分の話題を話しているのを耳にして、五条は咄嗟に死角へと隠れた。隠れてハッとする。なぜ自分はこんなコソコソと隠れているのか。
名前の態度には理由がある気がしてならないと言った夏油の言葉が思い起こされる。

──くそっ、傑が変な事言うから…!

「好きだから、知りたいだけだよ」
「? 本当にそれだけか?」
「そうだけど、」

続いて聞こえてきた声は、不思議な含みを持っていた。五条の心臓がどきりと脈打つ。
好きだから全てを知りたい。好きなこと、嫌いなこと、どんな些細なことでも。彼女が理由にあげるそれは、人を好きになる上で至極当たり前のことだ。名前はその先に、五条悟という一人の人間を見ている。

肩書きの多い五条にとって、それをしてくれる人間というのはただでさえ多くない。こと恋愛が絡むと、皆無と言ってもいい。どんな女も彼の美貌とその将来性を手に入れようと躍起になった。そこに"五条悟"を見ていた女が果たしてどれだけいたかなんて考えるだけ無駄だ。
名前だけだ、ありのままの"五条悟"を知ろうとしてくれたのは。

──まじか。何だこれ、体あっちぃ…。

五条の内に込み上げる熱。これは喜びだ。
その心を知った途端、あれだけ鬱陶しいと思っていた、名前からの質問が急に愛しく思えてくるのだから我ながら現金だと五条は一人心の中でごちた。

次、名前はどんな質問を用意して来るのだろうか。それになんて返そうか。自分もなにか質問してみるのもいいかもしれない。

五条が、彼女と同じ想いを返す日はもうすぐだ。