突然だけど、俺の彼女を紹介しようと思う。


「キヨ!」



彼女の名前は名字名前。紛れもなく俺の大切な恋人であるわけです。優しくて、穏やかで、何ていうか…名前と一緒にいるとお日様みたいな暖かさに包まれるような気がする(太陽じゃなくてお日様ね!ここ重要!)。そんな彼女とは喧嘩はおろか、意見の衝突だって一度もない。名前が怒りに狂ったり、泣き喚いたり、そういう一面を見たことがないのだ。誰の前でもそうなのだろうか、彼女には「感情の起伏」というものがあまり見えない。



「名前今日委員会でしょ?何時まで?」
「キヨの部活が終わる時間とおなじくらいだよ」
「やった!ラッキー!じゃあ一緒に帰ろうね!」
「うん!」


あ、嬉しそうな声。
思わず名前を抱き締め頭を撫でると、名前も背伸びをして俺の頭を撫でてくれた。


そうだ。感情の起伏が見えないとは言ったけれど、嬉しそうだったり、楽しそうだったり、そういう明るい表情はよく目にする。見たことがないのは、泣いたり怒ったり、のような負の感情ばかりだ。


俺が学校の生徒たちにどんな風に言われていたりだとか、俺を見る目だとか、それくらいはわかっている。俺だってそこまでバカじゃないし鈍感でもないし、無意識、というわけでもないのだから。所謂自分の恋人を悲しませるようなことだって、してしまっている。その事実を、名前が知らないはずがない。噂や風評は、羽が生えたように瞬く間に飛び広がるものだって、自分が一番よくわかっている。



「部活、がんばってね」



それなのに、名前は俺を一度だって責めたことはない。名前にとってはどうでもいいようなことなのか、気にならないのか、俺の見ていないところで悲しみに顔を歪ませているのか、俺は何も知らない。…目を塞いでいるだけ。



女の子は誰だってかわいい。女の子は愛でるものだ。だけど分け隔てなくってわけじゃあないんだ。俺の中にも特別な存在に位置づけられている子はいるわけで、それが名前なのだ。
何も言わなくても何も訊かなくても、俺たちはそれで良いと思っていた。言葉で確かめ合わなくたって、俺も彼女も理解し納得している。確証もないのにそう信じていた。言葉にしなければ心の中なんてわかるはずがないのに。

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