エッセイ *私と生活
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 いつだって、恋する乙女はなんだか可愛くて、色めいている。嗚呼、まるで食べ頃の瑞々しい果実のよう。

 浮き足立って、幸せそうな彼女たちを眺めながら、私は電車の中でミルクティーを飲み干しつつ、羨ましいなぁとほくそ笑んでいた。

 浴衣姿の乙女達がひしめく車内を見渡せばそうもなるかな。

 私だって少し前は浴衣くらい着ていた。今でも着ようと思えば着れなくもないんだけど、この所の熱帯夜を思い浮かべれば気は進まないや。

 それでも元気さが、浴衣を着通す体力があれば。
 後、浴衣姿が見たいの一言さえあれば、私は張り切るんだろうとは思うけどね。

 そんな張り合いがないのに、この暑い中わざわざ面倒な浴衣を着る理由なんてないわ。だから、ずっと着てないんだけどね。

 ただ、浴衣を着る理由が何かしらある若者達が、やっぱり恨めしく感じてしまう。


 周りを見渡せば、淡い色のネイルで携帯を弾いて、恐らく待ち合わせ相手と連絡を取り合っている女の子。
 彼氏を見上げ、屈託ない顔で笑いあって、楽しくてしょうがないといった表情の女の子。


 それぞれに、今日という日が楽しみで待ち遠しかったのだろうなと察しつつ、私は混みいった車内で揺れているだけだった。


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