エッセイ *私と生活
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私には父も母ももう居ない。父は高校の頃、母は結婚する少し前に亡くなった。

「私ね、子どもの頃みかんのうすい皮まで、お父さんに剥いてもらってたんやで」

義母さんからいただいた、オレンジのうすい皮をはいで口に入れながら夫にそんな話をした。

「そら、相当甘やかされてたんやな」
「うん。年の離れた末っ子やしな」
「でっろでろにやな」
「まぁね。もしお父さんがまだ生きてたらどんなやろか、思うで。みかん、剥いてくれんかなとか」

夫は、わからない、といった風にする。会ったこともないのだから、しょうがない。
ちみちみ皮を剥く私とは違って、夫は大雑把に筋を取って食べていたのでぶ厚い皮だけが残っていた。

横の優しげな垂れ目を見やる。
美味しいものをゆっくり口に放り込みつつ、夫と亡き家族を懐かしんでみるというのも、私にとっては幸せなひと時なのかなと考えながら。


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