創作小説 *恋愛

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なんで、あんなに近かったのに引き剥がされたんだろう。

否、引き剥がされたというのは言い間違い。これはお互いが決めた、どうしようもない事実。


いつになったら会えるのかな。

そもそも夜行で会いに行ったとしたら何時間、何万掛かるんだったけ。


私達は遠すぎる。










「ねぇ、今日は笹に飾りを付けたんだよ」

ほぼ毎日、私達は電話する。別に好きだよ、とかそんなことを囁き会ったりなんかせずに、いつも仕事や日常のたわいもない話でしかないけど。

「七夕かぁ、楽しそうだね」

香澄は優しげな声で話した。うん、と私は明るく返事をする。


「そういや麻友と付き合う前、うち短冊に『麻友とラブラブになれますように』って書いたんだよー」

不意に昔の事なんかのエピソードを話されたので、懐かしくも気恥ずかしくさせられた。

「本当に、願い事叶ったんだ」

感心すると、香澄は照れたみたいに笑いながらそうそうと言う。そして続けて、麻友は今回願い事書いた?と訊かれた。


「え、何だったけ…」

確かに私はちゃんと自分の願い事を書いた。けど、口ごもってしまう。

すぐに、覚えてないんかいと笑われたので、ごめーんっと笑い返した。






「ま、いいけど。てか天の川とか作った?」

「うん、作った作った!すっごい長くて地面に垂れる程の」

「なっがー」

「だって長くしないと、織り姫と彦星が逢えないからって」

「嘘ー。川、長くしたら余計に会えないって」

「……あ、そう言われれば」

「ふふ、ばーか」





7月7日は七夕の日。織り姫様と彦星様は年に一度だけ天の川を渡って会うことが出来る。

私達はまだ会えないんだね。


でも8月は連休を取るからやっと会えるんだよね。




声だけではやっぱり寂しいよ。前みたいに、毎日キスがしたいのに。

寂しさで押し潰れそうな時、いつでも抱きしめて貰えたら。


「早く、逢いたい」

「え?」


電話を切る直前に、ぽそりと小さく言った。


「私の短冊、そう書いたんだ」

「そっか…うちも早く麻友に会いたいよ」


香澄の声は寂しげだった。



※「あい」ではじまる20題より


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