りんはお姉さんだなぁ
幼馴染である竈門炭治郎はよくそう零した。
私は一人っ子。炭治郎は6人兄弟の長男。大人たちは炭治郎の方をしっかりした子だという。
それでも炭治郎は私のことをお姉さんだなぁ、と言うのだ。
「炭治郎、炭を頂戴」
「嗚呼、そうだりん。みんなが会いたがってるんだ。近いうちに遊びに来てくれないか?」
「それは構わないけど…私お邪魔じゃない?」
「邪魔なもんか、りんは家族みたいなものだから。気にせずに来ておくれよ」
家族、炭治郎と。
ぽそりと呟くと炭治郎は俺の姉さんみたいなもんだしな、と目じりを落とした。
「炭治郎、お前」
「りん!なんでお前がここにいるんだ!?」
それはこちらの台詞だ。
炭治郎は突然山から姿を消してしまった。竈門家のみなも忽然と姿を消してしまった。
家に残っていた血痕から熊に食われたのかもしれないと村のみんなは泣いた。嘆いた。悲しんだ。
しかし、私はそうではないと薄らぼんやりそう感じた。
熊ならばもっと獣の毛や爪痕が残るはずなのに、綺麗に返り血のみが付いていたから。
きっと人に、人に近しい化け物に殺されてしまったのだと。炭治郎も家族を守って死んだのだと思っていたのに。
喉と目が焼けるように熱い。呼吸が苦しい。手足がガタガタと震えてちかちかと目眩がする。
ああ、嗚呼。確かに息をしている。足がある。しっかりと2本の足で竈門炭治郎が目の前に。
私の幼馴染がそこにいる。
「出稼ぎに、街に来ていたの。ねぇ、炭治郎、今までどこにいたの。2年もいなくて私てっきり、死んでしまったものだと」
「りん、俺はやるべき事が出来てしまったんだ」
「やるべき。信じる、信じるけれどねぇ炭治郎、なんでお前刀なんて持ってるのその洋服は何?お前、腕が太くなっていない?お前、今、なにをして」
はくはくと息を吐きながら言葉を漏らす。
炭治郎が優しく、悲しそうに笑う。
やめて、やめてくれ。
私は、炭治郎、お前のその笑顔に弱い。
何も言えない、嘘もつけないお前が唯一する、赦しを乞う時の笑みだ。
「りん、いつか、いつかまた逢いに行くから」
「いやだ」
「俺のことを待っていて欲しい。その時はおかえりと言って欲しいんだ」
「いやだ、いや、嫌々、嫌だ!」
「りんは、お姉さんだから、我慢して待っててくれるだろう?―いや、違う、違うなこの言葉は違う」
待っていて欲しいんだ、俺は
優しさを求める炭治郎の声色に、つい頷いてしまった。
空の色が炭治郎の瞳のように燃えていた。