私の始まりはいつだったか
そう、そうだ。父に買われた。一族の跡継ぎを増やす為だと。既に死んでしまった娘や息子よりマシな忍びを作るのだと買われたのが始まり。
父の訓練はとても厳しかった。辛かった、舌を噛んで死んでやろうと何度思っただろう。
然し結果として私は生きてる。代償としては、表情という表情が死んでしまった事くらいだと兄は言う。
血の繋がらない兄、宇髄天元。
彼は忍びであるのによく笑った、怒った、私に兄妹愛を与えた。
私はそんな兄が大好きだった。
「お前、地味に笑顔が少なくなっちまったな」
悲しそうに頬を撫でてくれる兄が大好きだった。
そんな兄が「この家を抜け出そう」と私に手を差し伸べた。
「千喜、お前はまだ人間に戻れるぞ」
「兄様、私、他の生き方を知らない」
「生き方なんて五万とあるわ、とりあえず俺は鬼殺隊に入る。鬼を殺す仕事だ。須磨、まきを、雛鶴にも了承を得てあいつらも俺に付いてくる。選べ、お前も」
「須磨姉達も?……でも、兄様、私、でも…兄様達とは離れたくない、でも私は父様に買われてる、逃げられない、逃げちゃいけなくて、私どうしよう」
私だって兄様たちと行きたい、生きたい。
けれど養子とはいえ元々商品だった私が買い手である父から離れていいのか。逃げていいのか。
それが分からない。
「あー……うん、質問の仕方を変えてやる。お前は兄ちゃんと離れたいか?」
「離れたくない」
「兄ちゃんが弱いと思うか?忍びとして落ちぶれてると思うか?」
「思わない」
「良し、ド派手に良い返事だ!いいか、俺はお前より強い。お前を守るくらい造作もないんだよ」
兄が優しく笑う。
「人間になろうぜ、千喜」
抱き着いた兄の腕が強く私を抱いた。