「祭りの神である俺の派手に可愛い妹だ、皆平伏せ崇めろ奉れその眼にしかと焼き付けろ妹の美貌を」
「宇髄さん、だいぶお酒が回ってますね」
「兄がすみません……」
音柱である宇髄から「屋敷で宴会を開くから来い」と招集がかかった。
柱全員に同様の文を送ったそうだが集まったのは俺と胡蝶と甘露寺、胡蝶のみだった。他の者は任務があったらしい。本当かどうかは知らないが。
宇髄の屋敷に着くと既に酒を呑んでいたのかほんのり赤くなった宇髄が歓迎してくれた。
並んでいたご馳走も嫁たちが作ったのだと自慢げに語り嬉しいことがあったのだと、幸せそうに零した。
「宇髄天元の妹、宇髄千喜です。此の度最終選別を合格し、鬼殺隊の一員として入隊しました」
「ほう、宇髄には妹がいたのか」
「応よ可愛いだろう美しいだろう艶やかだろう、拝め崇め奉れ」
「やだ可愛い!ねぇねぇ貴女幾つ?今日から鬼殺隊なのね!私甘露寺蜜璃って言うの、一緒に頑張ろ!」
甘露寺がきゃあきゃあと宇髄少女の手を握る。
歳は15です、と小さく返す彼女の表情が変わることは無い。
可愛らしい顔立ちをしているがどうも動かないその表情に兄とは真反対な性格であることを感じさせる。
胡蝶も会話に加わり女子だけの会話の空気が出来上がる隣で宇髄がうんうんと満足気に酒を仰いだ。
「些か羽目を外しすぎじゃあないのか?」
「煉獄、お前にあいつはどう見える」
ヒクリ、宇髄の喉が鳴る
「そうだな、確かにお前の言う通り可愛らしい少女だ。あまり表情が動かないのが気になるが…うん、可愛らしいじゃないか」
「あいつ、千喜、千喜はな。可愛い奴なんだ、忍びになりたくねぇと泣きながら逃げ方を知らなかった奴なんだ。
忘れもしねぇ、千喜が初めて任務に行った日だ。千喜はまだ未熟だったから俺も同行した、父親もいた。
人を斬るのがその任務の内容で、千喜は嫌だと泣き喚いた。今でも耳に残ってるんだその悲鳴がよ。
笑えるじゃねぇかよ忍になろうって奴が人を殺したくねぇっつうんだぜ、ボロボロボロボロ泣いて
結局親父が無理矢理刀握らせて斬らせてしまったんだがな、俺は未だにあの時止めなかった事を後悔してるんだ。
あの時止めていたら千喜はきっと人でいられた。売られていたくせに優しいあいつの事だ、きっとうまく生きていけたろうに。
あいつは馬鹿だから俺達の家族でいることを選んでしまったんだ。逃げればいいのに、買われたからではなく選んでくれたからと残っちまった馬鹿だ、馬鹿で愚かで優しい奴だ。
可愛い可愛い俺様の妹だ、れんごく、おまえも、どうかあい、つの……めんどぅ」
バタン
派手な音を鳴らして宇髄が横になる。
まさかこの男が酒に負け、酔いに任せて饒舌になるとは思わなかった。
この宴会も彼女の為に開かれたに違いない。
話からするにきっと、人との関わりを広げて元の女の子に戻って欲しいのだろう。
心配そうにこちらに寄ってくる宇髄少女に大丈夫だよ、と声を掛ければほっと胸を撫で下ろした。
「宇髄少女、君は兄が好きかな?」
「私の大切な人です」
「うむ、とても良い返事だ!君が強き剣士となれることを楽しみにしているぞ!」
宇髄千喜が、穏やかに微笑んだ。